表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン

 一週間の仕事が終わった日曜日の夜、村にたった一軒しかないバーで冷たいビールを一杯飲むのが、とかげの何よりの楽しみでした。


 古くて小さい店でしたが、いつも隅から隅まで掃除が行き届いていて、塵ひとつ落ちていたことがありません。


 グラスはひとつ残らず、どれもぴかぴかに磨かれていました。


 そのグラスにほんのり酔った自分の顔が、表面のカーブに沿ってユーモラスに間延びして映っているいるのを見ると、とかげはほっとして思うのでした。





「今週も一週間、よく働いたなあ。


 今日はビールを飲んでぐっすり眠ろう。


 そうして明日から、また頑張ろう」






 とかげはひとりっきりで小さな家に住んで、朝暗いうちから狭い畑を耕して暮らしていました。


 それだけでは到底食べていけないので、自分の田畑の世話が済むと、村の地主さんの農場へ行って働きました。


 田畑を耕すのはもちろん、鶏小屋に行って卵を集めたり、豚小屋で豚にえさをやったりもしました。


 小屋の掃除もしましたし、寝床つくりも手伝いました。





 農家の仕事には土曜も日曜もなくて、その上そこではいろいろな種類の野菜や穀物が作られているものですから、いつも何かしらすることがあって、ほとんど休みも貰えなかったのです。


 けれどとかげは働くことが好きで、また、性に合ってもいたので、少しも辛いとは思いませんでした。


 よく働ける丈夫な体があって、自分を必要としてくれる人がいることを、とかげはいつも「うれしいな」「ありがたいな」と思っていたのです。


 それに、週に一度飲むビールが、十分にその疲れた体を癒し、心を安らかにしてくれました。





 時折、お金に余裕があると、お店の旧いジュークボックスで好きな曲を一曲かけるのが、とかげのささやかな贅沢でした。


 「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」


 この曲を聞くと、とかげはいつでも、この店に初めて入った日のことを思い出すのでした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ