第三章・ベッドの上でモフモフしよう・その二
「媛様、玉網様と宝利様が至急のご相談との事です」
帯枯葉を下艦して魔海対策庁仮本部庁舎兼本局棟【なのりそ庵】に到着すると、門前に中年の女官さんが待っていました。
白髪交じりの女性は、巻網媛が魔海対策局の神官になった頃から縁のある、いまとなっては局内で最古参の女官さんです。
「ふむ、なに用じゃ?」
「存じません。会議室に案内せよとのご指示にございます」
つき合いの長い巻網媛にはわかりました。
女官さんは話の内容を、少なくとも一部は知っているであろうと。
「あいわかった。すぐに参ろう」
これは表沙汰にできない至急の相談事だと察した巻網媛は、玄関に草履を脱ぎ散らかし、廊下を速足で進みます。
「さては、また抄網がなにかやらかしたか……?」
浮桟橋に抄網媛専用の小早【蜂雀】が停泊していたのは確認済み。
そうなると玉網媛と宝利命は、縛り上げた抄網媛を監視しつつ、巻網媛の沙汰を待っている可能性があります。
罪状はきっと女官兼巫女さんたちの一人、あるいは複数人を誑し込んで朝チュンしていたのを発見されたとかなんとか。
そんなこんなを考えているうちに、会議室の前にきてしまいました。
普通なら、ここで躊躇するところですが、巻網媛は間髪入れずに扉を開け放ちます。
「おお伯母上、早かったな」
「お待ちしておりました」
室内には玉網媛と宝利命が、いまや遅しと待っていましたが、抄網媛の姿がありません。
「なに用じゃ? 抄網はどうした?」
そうやら粗相の類ではないと知り、安堵する巻網媛ですが、もちろん顔には出しません。
「抄網は蜂雀の艦長室にて執務中です。それよりも伯母上……」
と、そこで宝利命が玉網媛を手で制しました。
「いや姉上、吾輩から話そう」
「どちらでもよいではありませんか? 御目出度いお話ですし」
「姉上、頼む」
「????????」
宝利命は深刻そうな表情なのに、玉網媛は嬉しそう。
訳がわかりません。
その時、宝利命は巻網媛の目を見据えて、こういい放ちました。
「伯母上、五年前の事なのだが……」
目の前が真っ暗になりました。
とうとうこの時がやってきたのです。
毎夜魘されつつも待望して止まなかった、糾弾の始まり。
ここで巻網媛はやるべき事は?
簡単です。
土下座して謝ればいいのです。
「…………………………………………」
謝罪の言葉は喉に詰まって出ませんでした。
この世に生まれて四十二年、ただの一度も謝罪した事がないのです。
謝って許されるとも思っていません。
その代わり、どんな償いであっても拒まぬ覚悟はできています。
死ねといわれれば即、手刀で自らの頸を刎ねるつもりでした。
「……伯母上⁉」
青ざめる玉網媛が視界に入ります。
それを腕で脇にどけて、宝利に向けて一歩踏み出しました。
踏み外しました。
体からガクリと力が抜けて、木造の床に倒れ込みます。
「ほう……り……ぐばぁっ!」
胃袋の中身を、すべて吐き出しました。




