適性検査
王宮からの来客は,教会内でも比較的綺麗な応接間に通された。
言わずもがな来客としてきたのは,あの大臣だった。
「ハセガワ・エイタ久しぶりだな。」
「貴方にここに来るように言われてまだ1週間ですよ。久しぶりというには期間が短いですよ。」
「それもそれだな。」と大きく口を分けて笑う。
(この大臣はやはり苦手だ。今回はどんな用件でここに来たのか?もしかして,俺の処刑が正式に決まったとかじゃないだろうな……。)と一抹の不安が頭を過る。
クリスともう一人のシスターであるヘレナと俺の3人が呼ばれている状態だ。
「急な来訪で申し訳ない。今回,こちらの教会に来た理由は1週間前にそちらに送った,ハセガワ・エイタについてだ。」毎回嫌に感じる切り出し方だ。
「そこにいるハセガワ・エイタは我が国の民ではなく,遠い国から来たということで一旦は王宮で保護をしていたが,そこでの様子を考慮して今回教会へと手配をした……」
クリスとヘレナは一言も漏らさないようにしっかりと大臣の言葉に耳を傾け話を聴いている。一方の栄太は……(話が長い!言いたいことがあるのならはっきりと言ってほしい。まだやらなきゃいけないことが沢山あるのにこれでは今日中に終わらないかもしれないじゃないか)と口にはせず,愚痴を心の中で言っていた。
そんな風に栄太が思っていることはつゆ知らず,大臣は話を続けていたが,ようやく本題に移ったようだった。
「……というわけで,やっとのことで今回ハセガワ・エイタの国民としての処理が終了したので,本日付でハセガワ・エイタは我が国の民として扱うことが決定した!」
突然自分の名前が出てきたことで栄太は我に返りハッとした。周りを見るとこの場にいる全員が自分の方を向いている。よくわからない状況だったが,何か言わないといけない状況ということはハッキリとしていたので,てきとうに「はぁ。ありがとうございます?」と礼にもならない礼を述べた。
「エイタさんよかったですね。」とクリスが言ってきたが,いまいち要領が掴めない。
「これでエイタさんも私たちと同じですね。」とヘレナが言っても,
「そう?みたいですね。」と間の抜けた返しをしてしまう。
大臣は一人で嬉しそうにがっはっはっはと大きく口を開けて笑っている。
何が何だか分からないけど,笑っておこうと思い,ハハハと笑った。
「そこでだ。今回我が国の民となったので,ハセガワ・エイタにはスキルや魔法の適性があるか鑑定をしてもらう。」
「鑑定?それはどんなことですか?」
「鑑定というのは,国民が受けなければならない検査でして,この鑑定を受けて初めて自分の魔法の適性やスキルを知ることができるのですよ。この鑑定は自分の仕事を決定するうえでも重要なものとなってまして,この国では10歳になったときと15歳になったときに2回受けることができます。」とヘレナが優しく教えてくれた。
「その鑑定?というものを受けて自分はどうなるのですか?」と聞くと,
「ハセガワはこの鑑定を受けて,自身の能力を確認してもらいそれから教会での役割を決めてもらおうと思ってここまで来たのだよ。」
「役割ですか……。」
「そう役割。もしハセガワに剣術などの武術に関するスキルがあれば教会の警備などの対処ができるだろう。魔法の適性が高いのであれば,しばらくの間は教会で魔法の訓練をしながら畑などの世話などができる。時期が来たら,教会ではなく魔法を研究している機関などで働いてもらうようになる。といった具合にその状況に応じてできることをしてもらう予定だ。」
「適材適所という感じで仕事するようになるということですね。」
「自分から1つ聞いてもいいですか?」と言うと,大臣は快く了承してくれた。
「鑑定するのは10歳と15歳ですけど,これは何が変わるのですか?」
「魔法の適性というものは生まれつきのものが多いのだが,スキルは生まれつきのものとそうでないものとある。10歳の時にはなかったスキルが15歳のときには発現して,当初の予定とは違った仕事に就くものも多いこともあり,我が国では2回の鑑定を義務付けている。もちろん本人の希望があれば,2回以上鑑定を行うこともあるが,新たに鑑定する場合は別途料金が必要になる。」
「ということは,先天性のスキルと後天性のスキルが存在するわけですね。具体的にはどのようなスキルとかは分かっているのですか?」と聞くと,後天性のスキルについてはまだ不明な点が多いとのことだった。
「今回の鑑定は,国民になって初めてのものなので無償でするので安心しなさい。鑑定するための道具などは準備しているのでいますぐに始めることもできるぞ。」ということなので,よく分からないが取り敢えず鑑定されてみた。
鑑定するのに必要なものは,少量の血液だけ。指先を針で刺し出てきた血液を鑑定紙と呼ばれる紙に一滴落とすのと,魔法適正用の小瓶に一滴落とせば,すぐに分かるというもの。
先に鑑定紙が淡く輝きスキルの鑑定が終わったようだ。程なくして魔法の適性も出たらしい。
鑑定士が大臣に一枚の紙を渡し,それに目を通す。
大臣が小刻みに震える。(この人は不安を煽るのが本当に上手だな……。)と内心感心していると,大臣が徐に口を開いた。
その鑑定結果を聞き栄太のこれからの生活が決まっていくのであった。