共同生活の始まり
「ここが言われた場所か…。」と栄太は年季の入った大きな建物を眺めた。
お世辞に言っても綺麗ではない建物。ひび割れた壁,雨漏りのしそうな屋根,ドアも老朽化が進んでおり,大人が少し力を加えたら外れてしまいそうな状態だった。
数時間前に大臣から言われた言葉を思いだす。
「貴方にしてほしいことがある。それは……,郊外にある教会でシスターの手伝いをしながら子だもたちの面倒をみることだ!」と大臣が言ったことに,唖然とした。
「はぁ?」と間の抜けた声が出た。「どうして私に子どもたちの世話をさせようとしているのですか?」と理解をしていないため質問する。
「君の奉仕活動での様子を聞くに,面倒見がよく,責任感のある人物と報告を受けている。また,現在の君の立場は我が国の国民ではないので,こちらで様々なことを保証することができない。」と,
更に,「君が人畜無害な人物かどうかを決定するにはまだ時間が必要であるから,この際に我が国の抱えている孤児の問題を手伝ってもらおうと思い今回の処遇としている。」
「君の身分は保証されていないので,こちらとしてもそのまま解放するということもできないのだよ。」と。
突然のことで頭が追い付いていかない。
(確かに今の自分は身元不明の密入国者のようなものだ。このまま好きにしていいといわれても,どう生活していけばいいか分からない。この扱いは別に問題ないのでは?)と考えている間にも話は進む。
「そこで今日から君は,郊外の教会で住み込みで子どもたちの世話をしながら,生活をしてもらおうと思う。場所はこの地図に書いてあるし,行きは迷わないように2人ほどつけようと思うので,直ちに向かってくれ。」
「そんな急には難しいですよ。心の準備がありますし,住み込みというのが正直辛いです。」と,反論を言っても聞く耳持たず。「では,検討を祈る。」とだけ言われ,その場から連れていかれた。
道中に,教会のことを詳しく教えてもらったが,教会には現在年老いたシスターと若いシスターの2人で,子どもたちの世話をしているようだった。預かっている子どもの人数は10名。年齢は6歳~15歳とバラバラ,仕事の内容は,子どもたちと共に街の掃除をすることや,建物の修繕,畑の世話など多岐に渡るようだった。
(見知らぬ土地でいきなり子どもたちと共同生活をするなんて,急すぎるだろ…)と考えているうちに,件の教会に辿り着いたというわけだ。
「文句を言っても何も変わらないか。まずは,顔合わせでしくじらないようにしないとな…。」と独り言呟いていると,ドアがギィと不気味な音と立てて開いた。そこからひょこっと,小さな男の子と女の子が顔を出した。
威圧しないように,その子たちと同じ目線になるように屈み,話しかけた。
「こんにちは。シスターさんに要があってきたんだけど,居るかな?」と,できるだけフレンドリーに,そして怖がらせないように笑顔を見せながら言った。
その子たちはニコッと笑い,「奥で仕事しているから連れてくるね。」と言ってくれた。
内心良かったとほっとしているうちに,奥から若いシスターが出てきた,見た目が若いだけでなく,一目見ただけでも分かるほどの綺麗な女性。肩までの金色の髪が美しく,通り過ぎるときに思わず二度見をしてしまうほどの女性だった。
「あの~,すみません,どなたでしょうか?」と,少し警戒したような様子で尋ねてくる。
「私は今日からこちらでお仕事を手伝うハセガワ・エイタというものです。急な話で驚かれたと思いますがよろしくお願いします。」と,頭を深く下げて挨拶をした。
「あなたがお城から手伝いに来る方でしたか。男の方の力を借りたいと日々思っておりましたので,こちらこそよろしくお願いいたします。」と,丁寧に挨拶された。
「私の名前はクリスチーヌです。長いと言い辛いかもしれませんので,クリスと呼んでください。」と,笑顔で言われ,一瞬ドキッとしてしまった。
「それでは,私もエイタと呼んでください。これからよろしくお願いしますクリスさん。」
まずは第一ステップクリアと思いながら,教会のドアをくぐっていった。今日から,子どもたちとの共同生活が始まる・・・。