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前職

 翌日,朝の作業が一段落した後,栄太は2人に話したいことがあると伝えて,昨日鑑定を行った部屋に集まってもらった。一体何事かと不安に感じている2人を前にして,若干の緊張を感じ(別の日に話したほうが良いのか)と躊躇しながらも意を決して栄太は話し始めた。


「お二人に集まっていただいたのは,自分のスキルの利用方法についてです。正直言って自分のスキルは教会の安全を確保するためや,経営が楽になるためのものではありません。お二人にとっても負担が軽減されるわけではなく,逆に多大な迷惑をかけるであろうというのは重々承知の上で言います。」


 2人は真っすぐに栄太を見つめている。その視線は迷惑だとか,憐れみといった負の感情のものではなく,これから言うであろう内容をしっかりと聞き取るための表情だった。

 栄太は良かったと思い,一息ついて話を続けた。


「自分の前の仕事は子どもたちに,学業を教える教師をしていました。学習するべき内容を身につけさせ,その内容を自分で利用し問題を解決する力を養い,自分のなりたい職業に就けるように手助けをしていました。ただ自分がしていたことは,その内容を身につけてそこでお終いではなく,成長したときに物事を正しく判断する力や,ものの考え方,価値観なども指導をしていました。」


「この国の子どもたちは,自分の一生の職を鑑定によって決められて,不本意ながら働いている子もいると思います。それ以上に,スキルがないために冒険者となって一獲千金を目指し,短い人生で終わってしまう子たちも居るでしょう。自分はそんな子どもたちが少しでも減るようなことをしたいと思っています。」話していると全身の血液が一気に巡ったかのように前進が熱くなる。綺麗事を言うなと,後で鼻で笑われるかもしれないがそんなことは関係ない!と思いながら続ける。


「そこで,教会の仕事をしながら子どもたちに基本的な“勉強”を教えていきたいと思っています。年齢毎に時間帯を区切って,読み・書き・計算をまず教えていき,その後に歴史・自然に関すること。善悪の区別など。自分にできることは限られていますが,少しでも子どもたちの未来が明るいものになるようにしたいので,その時間を取りたいのですが……」と,話している途中で,


「素晴らしい!」とヘレナ大きな声を出した。栄太は突然のことに体をビクッとさせた。勿論ヘレナの隣で話を聴いていたクリスの体も跳ねた。


「え~っと,ヘレナさんどうされましたか?」と,様子を窺いながら栄太は言った。


「ハセガワさん。あなたは本当に心が優しく,真面目な方なのですね。子どもたちの未来を憂いて少しでも力になれることがないのかと考えるその姿勢は本当に素晴らしいです。」ヘレナが興奮気味言う。


 話を聴くと,ヘレナとクリスも子どもたちの将来が心配だったらしく,そのためにどうにかできないのかと日々頭を悩ませていたらしい。しかし,読み・書きを教えることができても,計算ができない子どもたちや,歴史・自然などに興味を持たない子たちの接し方がうまくいかなかったらしく。どうしても,読み・書きと善悪の判断くらいしか教えられずに良い職に就くことができない子どもたちが多く居たらしい。その子どもたちが2人を恨んでいるということはなく,決して裕福ではないが充実した生活を送っているとのことで,より気になっていたそうだ。


 やはり子どもと接する仕事をしていると自分のことよりも子どもたちの成長が気になるのはどこでも同じなのだなと,栄太は思いながら話を続けた。


「“勉強”を教えるためには,いくつか準備しないといけないものがあるので,すぐには始められないのですが,子どもたちに時間を自分が使っても良いですか?」と訊くと,問題ないむしろ大賛成だと2人が言ってくれた。


 ホッと胸をなでおろしこれからの方針が決まったところで今後の準備について2人に話した。


 始めるのはこれから1月後。それまでに様々なものが必要になるので3人で手分けして準備をしましょうと打ち合わせをし,その場を後にした。

 3人の顔は以前よりも鋭気に満ちた顔つきだった。

 


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