第十七話 宵闇のヴェステイア
「やあ。お帰り!。薬草はとれたか?」
日がいよいよ丘の方へ沈む頃、俺はヴェステイアへと付いた。門番はこちらに気がつき、今日の首尾を聞いてきた。
「ああ。薬草の葉を六十枚ほど刈り取ってきたよ。」
俺はアイテムボックスの中から葉を一枚とりだした。
「おお、いい枚数集められたな。うん、刈り取りもしっかりできているようだな。最近は集める人が少ないせいか町の近くでも群生していたみたいでなによりだ。それだけあれば10人分は薬が作れそうだな。ヴェステイアで流行病なんて滅多に起きないが、万が一を考えるとたくさん備蓄があると助かる人も多くなるからな。ありがとう」
門番は我がことのように喜びながら俺に笑顔を見せてくれた。
「いやありがたい仕事だよ。人の役に立って金ももらえるんだからいいもんさ。まぁ平原で魔物に襲われたんで大分大変だったがな。」
門番は魔物と聞いて険しい顔になった。
「魔物か。最近数が増えているからなぁ。ホライゾンフロッグやディノリーチがこのところ門の周辺にも現れるようになったし、それを狙って強い魔物が現れるのではないか心配だ。」
彼は困ったような顔でこちらも見てきた。
「そんな顔でみられても俺はまだ新米冒険者だからな。期待しないでくれ。」
俺は肩をすくめて彼の顔に答えた。
「まぁそのうち討伐依頼が町から出るかもしれないから、是非そのときは受けてくれ。頼むぞ!」
門番はそんなことを言いながら、俺に道を空けてくれた。
「おう、考えてやるよ(やるとは言ってない)」
門番へ手を上げて俺は礼を言いながら町へ入る。あたりはすっかり暗くなってしまった。昼間は気がつかなかったが、道沿いにクリスタルのようなものが刺さっており、ほのかに光を放っていた。どうやら道を踏み外さないように設置しているようだ。畑道が石畳にかわり、やがて町の中に入った。酒場を目指して町を歩いているとだんだんとざわざわと喧噪が聞こえてくる。その音は町の中心に近づくにつれて大きくなって行った。
「昼間は静かだったのに陽が落ちるとえらい賑やかになるんやなぁ。」
丁度仕事終わりの時間に当たったみたいだった。昼間は衛兵しかいなかった通りに屈強な男たちがあふれかえっている。彼らは港の方からガヤガヤと集まってきて、近場の酒場や食事処、宿へ入っていくようだ。
うーん静かな町だと思ったらこんなにたくさん人がおるとはなぁ。ギルドの酒場も混雑してるやろか?」
俺は人混みを避けながら、今朝入った酒場を目指す。大きなベルのついた扉が見えてきた。ホッとしながら入る。
酒場は昼間と違い10人ほどの人が静かに酒を飲み、料理を楽しんでていた。魔法の明かりが程よい薄暗さを感じさせ、大人な良い雰囲気だ。ここの酒場は静かに楽しむのがルールのようだな。扉の音に反応してカウンターにいた小さな影が手を振る。
「あっマークさんお帰りなさい!。どうでした!?とれました?薬草!」
受付のアーニャさんが俺を見かけるなり元気に声ををかけてきた。
ムーディーな雰囲気が台無しであるが、客たちはちらりと見ただけでまたかとばかりに苦笑いしながら食事に戻った。
「ああ、六十枚ほど葉を採取してきた。たしか一つ銅貨五枚といっていたかな?一つというのは五枚でワンセットということだね?」
ちょっと恥ずかしいと思いながら俺は受付まで歩いて行く。横で店主がグラスを拭きながらこちらに黙礼した。
「はいそうです!。よく冒険者さんが勘違いしますが、一つというのは一枚ではなく一つの草からとれる五枚の葉のことを言います。」
俺は予想通りだなぁと思いながら、微妙に説明が足りていなかったことに心に苦笑いを浮かべた。
「そうですか。それならものはどこに置いたらいいですかね。」
「あっ、それなら左奥に行ったところにある素材買い取りカウンターから買い取りと依頼達成を報告できますよ。普通は依頼書を発行してもらってから依頼に行くのですが、常時討伐と薬草集めは必要ないんです。」
彼女は店の左奥の通路を指さした。上の看板に買い取りカウンター、依頼達成報告所と書いてある。
「ああ、ありがとう。それじゃ早速換金してくる。」
俺はそちらの通路に足を向けて奥へと進んでいった。