第十三話 冒険者組合
「はぁ。慣れないしゃべり方をして肩がこったわ。割と親切な衛兵さんやったなぁ」
衛兵に声が聞こえないところに来てほっとため息をついた。やはり第一印象は丁寧なイメージが大切だろう。ふと前に目を向けるとそこは畑と風車小屋の広がるのどかな風景だった。
「城壁の中に畑があるんやなぁ。勝手なイメージで外にあるもんだと思っていたけど、考えてみれば動物にやられるもんな。この中を通って町の中心へ行くっていうのもなんとも乙なもんだな。」
道は10メートルほど幅がある。しっかりと踏み固められており、歩きやすい。畑の中を真っ直ぐ町へと向かかいながら、俺は冒険者とは言ったもののどういう仕事があるんだろうかと不安に思った。
「冒険者というからには冒険するんやろうけど、某考古学教授みたいに遺跡とかもぐるんやろか?それで金が入るんか?」
まあ今金が入りそうなのはこの冒険者というのがいいみたいだし、まずはチャレンジしてみようか。
「おっ、町の中に入ったみたいやな」
道が土を踏み固めた道から石畳に変わった。周りも変化し、木造の二階建てくらいの建物が道に沿って立っている。
「ヨーロッパ風の古い建築ぽいな。まだ建物もそんなに古くなさそうやし、ここはわりと金回りがいいから建て替える余裕もあるんやろか?ところで冒険者になるにはどこいったらいいんやろ?」
雑貨屋、ツールショップ(?)、食料品店、酒場、町の中心へ向けて道沿いに立っている建物をみながら歩いていると、衛兵から声をかけられる。
「やぁ。この町は初めてか?」
「ええ、よそからきたもんでね。冒険者になろうと思うんだが、どこに行ったらええかな?」
衛兵は酒場を指さす。
「それだったら、そこの酒場が斡旋所になっているぞ。資格や資料がほしければ中にいる組合員へはなせばすぐ用意してくれるだろう。」
「ありがとう。なら早速そこで資格をもらってくるよ。」
俺は衛兵に軽く手を上げて礼を言いながら、酒場へむかう。入り口には今日のおすすめメニューがあった。
【本日のおすすめ:川ますのムニエルと白パン、レンズ豆のスープ】
「美味しそうやな。金が入ったら頼んだろ!。とりあえず今は仕事や。」
俺は酒場の扉を開けた。扉に付いた鐘が音を立てる。
「いらしゃいませ」
カウンターの奥に2人の人が立っている。1人は元気そうな若い女性のようだウエイトレスだろうか。こちらを見てひまわりが咲いたような明るい笑顔を向けてくれた。もう1人は壮年の男性で、おそらくこの店の店主だろう。いぶし銀ともいえる渋い顔立ちをこちらに向け一礼する。俺はカウンターに向かい店主へと話す。
「ここで冒険者になるための手続きができると聞いたのだけれど、今良いかな?」
店主はこちらを見てその顔立ちから想像通りの渋い声で答える。
「冒険者への登録なら隣にいる組合職員へお願いします。アーニャ。」
「はい!はい!新規登録ですね!。どうぞこちらへ!」
冒険者組合の女性、アーニャというようだが、彼女がこちらに手招きをする。
「おおこっちか。早速登録をお願いしたい。今無一文でね。なんとか仕事したいんだ。」
俺は女性の方に移動しながらそう答えた。
「無一文!?一応登録は二十チップいただくんですけど、一応付けにできますから大丈夫です。お金がなくてという方はよく見ますけれど無一文で来る人は初めて見ました・・・。」
なんだか可哀想な人を見る目でこちらを見てくる職員の女性。
「いや、すこし不幸なことがあってね。お金をすべて失ってしまったんだ。なので冒険者になって金を稼ごうというわけさ。」
「そうですかぁ。深くはおたずねしません!。それじゃ早速資格書を発行しましょう!。お名前をお願いします。」
彼女は気持ちを切り替えたようだ。いいなこの切り替えの良さ。
「ああ名前は別所正勝だ。」
俺は自分の生前?の名前を名乗った。やはり名前というものは必要以外に変えるのは避けたい。
「えっ?なんていいました?ごめんなさい全然聞き取れないのですが・・・」
職員が疑問符を浮かべる。
「だから別所勝正だ。べっしょ かつまさ」
区切りながらゆっくりと発音した。これならバッチリだろう。
「・・・ごめんなさい全然聞き取れません。」
彼女は心底申し訳なさそうな顔でこちらを見る。うーんもしかすると日本語の名前はこちらの世界の言葉に翻訳されないのかもしれないな。それならしゃあない。
「・・・そうか、それならマークドワン。これならどうだ?」
「ああ!こんどは聞き取れます。マークドワンさん、マークさんですね!よろしくお願いします!」
マークドワン。昔スタル○ーというゲームに出てきた主人公の名前だ。俺はあのゲームがお気に入りだった。異世界にきてしまったので気にしてもしょうが無いが続きはいつでるだろうか?
「ああ、よろしく頼むよ。えーっと・・・」
彼女の名前はアーニャでいいんだろうか?隣の店主がそう呼んでいたが・・・
「あっ。申し遅れました私の名前はアーニャです。このヴェステイアの冒険者組合の職員をしています。」
彼女は勢いよく頭を下げた。どうやらよかったみたいだ。彼女が顔を上げるのを待ち、
「ああ、どうぞよろしく。他にすることは何か無いか?」
と尋ねた。アーニャはこくりと頷き二枚のはがき大の紙を出した。
「はい、それから血を2滴、こちらとこちらの紙にお願いします。これは血液から追跡できる身分証明書になります。一枚は登録用で、もう一枚はマークさんの身分証明書として携帯してもらいます。ギルド窓口で荷物やお金を預けたときこちらの身分証明書を提示してもらえれば全国どこでも引き出しできますよ!」
俺はさっと指を噛み血を垂らす。血を垂らした紙を彼女が一枚を俺に渡し、もう一枚を何か機械らしきものに通す。よく見れば紙には名前と性別が書かれ番号が振ってあった。なるほどこれがキャッシュカードのかわりになったりするのか。なくさないように気をつけよ。それはそうと機械が気になった。
「その今カードを入れたやつはなんだい?」
「ああこれは古代遺産の魔道具一つですね。昔から使われているものですが、理屈はあまり分かっていません。ただ、所定のサイズの紙をいれると登録と照会ができることはわかっています。この機械自体は古代の生産工場の生き残りのおかげでたくさんあるみたいですから小さいな町の組合まであるみたいですね。」
彼女はトースターのような機械を眺める。
「はぇ~。すごい機械があるもんだなぁ」
インターネットを使わずどんな理屈かわからんが情報が共有できるのか。すごいね。
「そうですね、古代文明の遺産はすごいものが多いですよ!冒険者はそういった遺跡に潜って新しい遺産を見つけることも一つの仕事ですよ。・・・はい、これで登録完了です。マークさんも強くなっていっぱい遺産を見つけてください!」
彼女が元気に応援してくれた。ありがたいがそろそろ仕事の話をしようかね。
「さて、登録はこれでOKなら、仕事を紹介してもらえないかな?」
このままでは町で野宿せねばならないだろう。彼女は少し考えながら
「うーんお仕事ですけれど、いまマークさんができそうな仕事は薬草の採取だけですね。荷物運びは朝しかないものですからもう終わってしまったし、狩猟、討伐、探索は受けてくださってもかまいませんが、登録したてではあまりおすすめしません。まずは日銭を稼いで資料などを見てお勉強されてからの方がいいと思います。」
彼女は迷いながらも的確なアドバイスをくれた。
「よしそれなら薬草の採取をやらせてもらおう。ところでこれは幾らくらいになるかな?」
「全草なら一つ銅貨二十枚、葉っぱや根、穂先バラバラなら一つで銅貨五枚になります。全草の場合はすべての部位に痛みのないことが前提になりますので、ちょっと手間がかかります。基本的には痛めなければ薬効は落ちませんから葉っぱを刃物できり取り、アイテムボックスの中へ入れるのがいいと思いますよ。これが薬草のサンプルです。」
彼女がカウンターの後ろから薬草のサンプルを見せてくれた。銀色の茎に、青々としたロゼッタ葉の葉をつけた植物みたいだ。穂先には麦のような実が付いているが、青みがった色をしている。
「よしわかった。確認だが、これに似た草とかはないかね?間違えると困るから一応あれば聞いておきたい。それから宿はどこないか?」
持ってきたらつっかえ!は困る。こういうことはしっかりと聞かねばなるまい。
「いえ、これだけ特徴あるやつですから間違えるものは無いと思います。宿ならこの酒場か、冒険者宿がいくつかあります。ここでしたら銅貨二十枚で一部屋借りれますよ。冒険者宿は仕切りつきの大部屋で銅貨十枚で泊まれます。」
どうやら薬草をいくらか集めたら最低限の宿は泊まれそうである。さてまだ日も高い。早速薬草を採りに行くか。
「ありがとう。それじゃ早速薬草を採ってくるよ。とったらここに持ってきたらいいかね?」
「はい!ここは深夜でも職員が交代でずっと開いていますからいつでも持ち込んでください。薬草は丘を越えた先や森に生えていますから魔物や獣に注意してくださいね!」
彼女が俺が通ってきた丘の方をさした。そうだったのか。往き道にとっておけば良かったのかもしれない。まあしらなかったのだからどうにもできなったが。
「わかった。それではいってくるね」
俺は彼女に背をむけ出口へと向かう。
「はい!気をつけて!」
元気な声を背に受け、扉のベルをからん、からんと音を立てて俺は外へと歩いて行った。