表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編・ショートショート

もっちゃらふ・リート教

作者: 自由

 近頃わが国では、「もっちゃらふ・リート教」の信者というのが静かに増えつつあるらしい。私は興味を持ち、ちょっと話を聞きにいくことにした。


 会ってみると、とりたてて変わったところのない、ごく普通の人だった。


「こんにちは。私が教団の支部長です」

「どうも。早速ですが、『もっちゃらふ・リート教』というのは何をするところなんですか」

「自由です」

「は? と、言いますと?」

「ですから、自由です。つまり、何をやってもいいんです。ただし、その結果を受け入れる必要はありますけどね」


 私は首をかしげた。


「えーと、イマイチ分かりづらいんですが、どういうことですか?」

「そうですねえ。例えば、人の物を盗むとします。ええ、もちろんいけないことです。ですが、いけないことだから盗まないという考え方ではなく、盗んでもいいが、それによって警察に追われたり、捕まったりするリスクも考えてから盗めよ、と、そう言っているわけです」

「うーん、なかなか面白い考え方ですけど、私はちょっと……。それに、何をやってもいい、と言われると、かえって、何をしたらいいのか分からなくなってしまうもので……」

「ええ、そういう方もたくさんいらっしゃいます。ですから、規律に縛られてもいいんです」

「え、いいんですか?」

「もちろん」


 支部長はうなずいた。


「なんたって、『もっちゃらふ・リート教』ですから。何を信じるもよし、信じないもよし。入信自由で脱退自由。他の宗教と同時に信仰するのも自由です。もっとも、これは他宗教側の戒律の問題もありますが、当方に関しては一切問題ありません」

「あの、入ったら多額の寄付をせまられたり、変なツボを買わされたりとかいうことは……?」

「一切ありません。無論、寄付をするのは自由ですが、強要したりはしません。全て自由です」

「えーと、じゃ、入信したい場合は、どうすればいいんですか?」

「『入信する』と思ったら、そのときすでに入信しております」

「ええっ? そんな簡単なものでいいんですか? 入信手続きとかは一切ないんですか?」

「ありません。逆に、『脱退する』と思ったら、そのとき脱退しております。そのため、信者の正確な数を把握できないのが難点ですが、まあ、こればかりは仕方ありませんね」


 支部長は苦笑した。


「というか、私も支部長と名乗っておりますが、ただの平信者ですし」

「えっ、そうだったんですか?」

「はい。この教団、みんな平信者です。ただ、『教祖』や『最高指導者』と名乗っても一向に構いません。何せ……」

「自由だから?」

「そうです」


 支部長こと平信者は笑った。


「実は、気付いていないだけで、万物は全て『もっちゃらふ・リート教』の信者なのではないかと思うことがあるんです。気付くのも自由、気付かないのも自由、ということでね」

「奥が……深いですね」

「なに、難しく考える必要はありません。私が勝手に思ってるだけで、難しく考えるのも自由、簡単に考えるのも自由です」

「そうですか」


 私はそろそろおいとますることにした。とくに渋られることもなく、あっさりと帰ることができた。





「『もっちゃらふ・リート教』、か……」


 家に帰った私は、ごろりと横になった。

 すごい宗教だ。いや、宗教として存在するのかさえ疑わしい。

 そんなとき、チャイムが鳴った。


「どちらさまですか?」

「はい。実はわたくし、こういう活動をしておりまして……」


 何のことは無い、宗教の勧誘であった。

 そのとき、私はふと閃いた。


「すみません、私、『もっちゃらふ・リート教』に入ってますから」


 そう言って、私は勧誘員を追い返した。他の宗教に入っていると知ると、勧誘員はあっさりと引き下がった。

 なるほど、「もっちゃらふ・リート教」の信者が増えるはずである。私は当分、「もっちゃらふ・リート教」の信者でいることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他のショートショートや短編はこちらです。

「私はコレでやせました(300kg→3kg) ~悪役令嬢、育成計画~」
こんな作品も書いております。よろしければご覧下さい。
― 新着の感想 ―
[良い点] 教団の名前はともかくとして、素晴らしく「便利な」宗教ですね、モッツァレラ・チーズ教!(おいw [一言] 「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」を思い出させる哲学的な宗教だ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ