チートの極北
「あっどうも初めまして。私は人の運命を司る女神です」
「ケモミミとエルフ耳が両方ついてる幼女とかさすがに違和感しかない」
気が付くと、僕はあたたかな光に満たされた白い部屋にいた。
そこで椅子に腰かける幼女は女神と名乗った。
「まあ何もないところですが寛いでください」
「ではお言葉に甘えて。ところで、帰宅途中にトラックがこっちに突っ込んで来たとこまでは覚えているんですが」
「ええ話は早いですね。あなたは死にました。ニュースでは『頭を強く打った』とうっすらボカした表現の状態ですけど、ご覧になりますか?」
「それ茶碗蒸しの蓋が開いて中身がだばぁしてる感じのやつですよね?何が悲しくて自分の画像でスプラッタ耐性を鍛えないといけないんですか」
「前に進むためには辛いことは一杯あるものです」
「って謎のあの世パソコンで画像を見せてこようとすんなヤメロ」
幼女女神はとても残念そうに舌打ちして壁のボタンを押すと、ウィーンというモーター音と共にパソコンが床下に引っ込んだ。
なんだこの無駄なハイテクは。
「えー、その様子ではお察しの事と思いますが」
「僕が死んだのはそちらの手違いで、お詫びにチート与えて異世界転生させる的なやつでしょうか?」
「日本から来た方は話が早くて助かりますね。概ねその通りなんですが、今回に限り転生でも転移でもお好きな方をお選びいただけますよ」
「んーー仮に転移の場合、茶碗蒸しだばぁが治った状態になるんですよね?」
「いえ、だばぁのまんまです」
「その選択可能オプション今要るんだろうか」
椅子の横から今度はタブレットPCを取り出した幼女女神は一つ咳払いをした。
「えーではまず今回こちらでどのような不手際があったのかを資料付きでご説明させていただきます」
「あ、そういうシステムなんですね」
「あなたは元々、トラック事故で死亡する予定ではありませんでした。それが運命調整担当の天使が仮想通貨で有り金溶かしたショックで手元のスマホ操作を誤り、こういった事になりました」
「こっちでも仮想通貨あるのか……」
「その担当天使は現在罰として独房で米粒に細い筆で『麦』と書き続けています」
「そこは米の字じゃないのね」
「で、もしあなたが死亡していなかった場合どうなったかをご説明しますと」
「あーそれは多少興味ありますね」
「半身不随で一生寝たきりです」
「え?」
「各種賠償金や手当てなどでご両親は小金持ちになり遊んで暮らします」
「は、ちょ待って」
「数十年後亡くなったあなたの来世は力士の人面瘡でした」
「仮想通貨ありがとう担当天使ありがとう」
現世はともかく来世まで危なかったとか何か悪いことやったんだろうか僕。
「では、あなたに付与する予定のチート能力について説明しますね」
「あ、こっちで選べるカスタム的なやつはないんですね」
「そうですね。血液型などの体質みたいなもので、合っていない能力を無理やり付与すると拒否反応を起こすので」
「ちなみに仮にですが、合っていない能力を与えた場合どうなるんですか?」
「だばぁします」
「だばぁ」
「あとおならの匂いがくさやとシュールストレミングの最終決戦になります」
「合っている能力でお願いします」
「そこであなたに適した能力ですが、各種適性やこれから向かう世界の難易度を鑑みて、残念ながら一つしかない事がわかりました」
「何でしょうか。戦闘系?生産系?多少捻って内政系?」
「『キン○・クリ○ゾン!!!!!!』です」
「なぜ今叫んでエコーした……って、キンクリってあのキンクリですか?奇妙っぽい冒険で敵のボスが使った奴」
「ええそうです、『過程』を消し去って『結果』だけが残るあの能力のさらに強力な奴です」
「さらに強力!?」
「非常に強力ですね。最悪だばぁした状態でも何とかなりますから」
「いいんですかそんなの、例のラスボスよりさらにヤバイやつになるんですが」
「まあ今年度の予算使い切らないと来年度分削られちゃいますから」
「あっ(察し)ふ~ん……そういうシステムなんですね。ところでさらに強力と言うのは、どういう事でしょうか?」
「そうですね……例えば、敵に出会ってしまったとします」
「はい」
「チート能力を発動します」
「発動します」
「すると勝利します」
「…………言ってる意味があまりよくわからないというのが率直なところだ」
「『過程』を飛ばして『勝利』したという『結果』だけが残るのが『キン○・クリ○ゾン!!!!!!』ですからね」
しばし沈黙。
「ウェイウェイウェイ……え~とちょっと待とうか、過程と言うのは剣で斬ったり、魔法撃ったりして敵にダメージを与えると言う行為の事ですか?」
「その認識で概ね間違いはありません」
「このチートを感覚的に言うと、ボタン押すと敵がなんかよくわからないけど死ぬみたいな感じでしょうか」
「正確に言うと敵を討つ瞬間のような過程はすっ飛ばされ、仲間がいた場合はあなたの大活躍で敵が蹴散らされたという結果と仲間の認識だけが残ります。あとは例えば築城みたいな人を率いての大規模作業に使った場合、あなたの的確な指示ですごくいい感じに出来上がった事になっています」
「それチートどころかオート?いやデバッグモードじゃないですか」
「その気になれば冒険の初めに使ってラスボスを倒したとこまですっ飛ばすこともできます」
「何が面白いんじゃそれーーー!棒しか落ちてこないテト○スや同じ色が延々落ちてくる○よぷよよりも無味無臭無食感じゃねーか!ドキドキワクワクの冒険あり恋ありの一大英雄叙事譚丸ごと消し去って何が楽しいんじゃーー!」
思わず叫んで息を切らしたが、現在死んでいる状態なので肉体的なものではなく精神的な疲れなのかもしれない。
「えーとどうしてもとおっしゃるなら、他にあなたに適性のある能力を選ぶことになるのですが」
「あるんですか?何でそっち出さないんですか」
「『勇者の資質』」
「あるじゃないですかーーー!そうそれそーゆーの!」
「ただ世界の難易度とあなた自身の才能の無さで全く使いこなせず、99.974%の確率で最初に出会ったゴブリンにやられます。この場合資質のせいで無駄に生命力があるため、半分だばぁした状態で意識があるまま72時間連続で巣の中でカクカクされ続けます。彼らは相手がオスかメスかはあんまり考えないので」
「知りたくなかったーーー!」
さっきから絶望的な選択肢しかないのだが、いつまでも迷ってはいられない。
「さて、人間の魂をこの場にとどめて置ける時間も無限ではないので、そろそろ行き先を決めていただきたいのですが?」
~・~・~・~・~・~・~キンクリ仕事中~・~・~・~・~・~・~
「チートありの転生ライフはいかがでしたでしょうか?」
「うん……そうだね。まさかね……転生して5歳ぐらいでゴブリンに襲われて、その瞬間に転生前の記憶を取り戻してキンクリ使ったのはいいんだけどね……」
僕は2度目となったこの空間の中、思いっきり叫んだ。
「次の瞬間には十数年飛んでヒロイン5人と一緒に魔王倒してましたやったぜ。ってなってるとは思わなかったよチクショーーーー!」
「あら、不意の危険に思わず手加減せずに全力で使用したようですね」
「超カワイイヒロイン全員僕の恋人というハーレム出来てるのはいいんだけどね?僕自身には童貞捨てた記憶や体験とか欠片もねーんだよウワアアアアアアアアン!」
「それで今回の最期も魔導トラックに撥ねられて、ですか。よくよくトラックに縁があるようですね」
「うるせーよ!何でファンタジー世界にトラックあるんだよ!」
「だばぁ見ますか?」
「見ねーよ!何でそんな人の死に様を見せてこようとするんだよ!」
幼女女神が舌打ちと共に空中で指を横に動かすと、ホログラムディスプレイがスワイプされ横に飛んで消えた。
何か技術が進歩していたようだ。
「さて今回は世界を危機に陥れた魔王を討伐したと言う事で、ボーナスで来世の選択肢が力士の人面瘡に加えて増えています」
「あ、力士の人面瘡はそのまま残るんだ」
「まずはJK援助交際店に通う高級官僚の人面瘡ですね」
「えぇ……」
「『終わり』が無いのが『終わり』……キンクリ使ったなれの果てが黄金体験リセマラ転生と言うのはなかなか綺麗なオチではないですか?(ドヤァ)」
「黙れ駄女神」
デバッグルームを使用するロ○サガ2のTASを見て思いついてしまってすいませんでした。
あえて本家キンクリに劣る点があるとすれば、本人だけが起こったことを何も認識していない点ですかね。
そういえば星新一先生のショートショートに「自分自身が何をやっているか分からないけどものすごく有名人」という感じの内容のやつがありました。
比べるのもスゴイ=シツレイですが。