第8話:テーマパーク(擬き)
プレイパランドとか言うテーマパーク(?)のペアチケットを手に入れた。
そんな今、僕が直面している問題。
「一緒に行くやつ誰にしよう」
候補はある。
当たった時に隣にいたから、久美だ。
でも、それはちょっと僕にはハードルが高いです。
あー、誰かいないかな。
......親に渡すか。
僕は、ポケットにペア券を入れて部屋を出た。
リビングに親はいた。
テレビがついていて、最近流行の感動系青春ドラマが点いている。
屋上で盛り上がる生徒2人が映っていた。
今時屋上解放されてる高校なんてねーよ、と思いつつ近づく。
「あのs」
「待って、今いいとこなの」
「......はあ」
しょうがないから、テレビを見る。
屋上で隣り合う主人公と思しき男子とヒロインと思しき女子。
突然手を繋ぎ(もちろん恋人繋ぎ)男子が何か恥ずかしいセリフを言い始めた。
『お前しか......!』
『......私も、──が!』
「「............」」
『でもっ──!』
「「......!?」」
思ったより面白いぞこれ。
読ませる気のなさそうなスタッフロールを流し見する。
「いや〜まさかあそこで幼馴染が乱入してくるとはねー」
「よく思い出したらフラグがあったわ。全然気づかなかったけど」
「最初から見ればよかった〜」
ひとしきり話し時計を見ると、もう9時前だ。
「じゃあもう寝る」
「おやすみー」
何か忘れているような.....?
まあいいか。
部屋の照明の電源を落とし、布団に入った。
そうして何時間経過しただろうか?
扇風機をつけなかった。
最初は良かったが、少し暑くなってきた。
外が無風になったからだろう。
けどウトウトしていて、扇風機をつけに行くのが億劫だ。
......寝苦しい。
ふと寝返りを打つと、くしゃりと小さな音がした。
「.........」
ポケットの中で、紙が少しヨレたかもしれない。......紙?
「あっ......」
ポケットに手を突っ込むと、それは出てきた。
ペアチケット。
予想通り少しヨレていた。
「渡し忘れた.....ま、いっか」
いよいよ睡魔に負けた僕は、チケットを枕元に置き、今度こそ眠りについた。
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───か、───るか。──よ。
──よ、聞こえるか。
「?」
なんだろう。呼ばれている。
──聞こえたようじゃな、荘司よ。
僕は目を開けて、絶句した。
目の前に、謎の老人が浮かんでいる。
しかも、僕に語りかけてきている。
「............」
そうか、これは夢か。きっとそうに違いない。
いやぁ、ずいぶん変な夢を見てるんだなぁ。疲れてんのかなぁ。
てか誰だよこれ。
「......あなたは?」
──ふむ、貴様に敢えて語る名はない。
──だが名無しの老人も面倒だから、とりあえずシニアドバイザーと名乗っておこう。
ずいぶんと適当な老人である。
「シニアドバイザー......?」
──左様。若者を助けるシニアなアドバイザー。略してシニアドバイザー。
──若い感じがするじゃろう?
「しねーよ」
僕がドヤ顔する老人に突っ込むと、シニアドバイザーは、心外そうな顔をしていた。
......何だこの夢。
「で、何をアドバイスするんです?」
とりあえず敬語で切り出す。
するとシニアドバイザーは、
──敬語を使われたのは初めてじゃがいい気分じゃ。
などと言い、大仰に笑った。
哀しい人生を送ってきたんだな......
ひとしきり満足そうな顔をした後、彼は言った。
──ところで荘司よ。お前は本当はそれをどうしたい?
「それってのは、お金のこと?」
──チケットじゃよ?
だったら簡単だ。
「2枚とも誰かにあげt」
──嘘だッ‼︎
「ぅおっ!?」
なぜか、シニアドバイザーは勢いよく否定した。
「ちょっとシニアドバイザーさん、びっくりするじゃないですか」
──1回言ってみたかったんじゃ。
「えぇ...」
──まあ冗談はさておき、本当は違うだろう?
本当は、か。
実際のところは、たしかに違う。
一緒に行きたい人がいる。
でも。
「渡すのって、照れるじゃないですか」
そう答えると、シニアドバイザーはフッと笑った。
......微妙に腹たつ笑い方だった。
──照れていてはいつまでたっても進まんぞ。これはチャンスじゃ。
「チャンス」
──そうチャンス。お前が前進するためのな。
「で、でもいつ渡せば」
──やれやれ、そんなことも考えんのか。
......いちいちポーズが腹たつが、なんとか無視する。
──朝じゃ。2人きりで人の邪魔が入らないのは朝しかない。
──だから次の朝、確実に渡すんじゃ。
たしかに朝なら照れずに渡せるかもしれない。眠いし。
「わかりました。やってみます」
──よろしい。
こうして。
僕は老人に励まされ、気がつくと老人はいなかった。
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頭に響く電子音。
どうやら朝らしい。
僕は目覚まし時計を止め、着替える。
そして、公園へ向かおうとした。
が、チケットが目に入った。
脳裏をよぎる老人。
「.........」
チケットをポケットに丁寧にしまうと、僕は公園に向かった。
結局、チケットは久美に渡した。
──そもそも、親にあげるなんて慣れないことはあまりするものでは無かったのかもしれない。
なんて言い訳をしたが、実際のところはシニアドバイザーの影響が無視できない。
結局、シニアドバイザーはなんだったのか?
それは僕のこれまでの人生で最大の謎である。
で、後日。
駅で待ち合わせた僕たちは、朝から電車で少し遠出した。
行き先は、もちろん、プレイパランド。
お金とスマホ、それからチケットを持ち、某マップアプリに案内され、そこにたどり着いたのは昼前だった。
「いや〜、意外と遠かったな」
「もう昼ね。なんか食べよ?」
売店があるのは確認済みだ。
雑談しつつゲートへ向かった。
...のだが──
......おかしい。
向かっているのはテーマパーク擬きだったはずだ。
なのに。
「人が全然いないわね」
「うん。さすがに居なすぎる」
そう。
客と思しき人が、ほぼいないのだ。
念のためスマホの画面を確認。
──道はあっている。
しばらく歩くと、曲がり角があった。
ほとんどの人がそっちへ曲がっていく。
僕たちは、まっすぐいくのだが。
「ねえ荘司、道あってる?」
「......あってる」
もしかして:寂れてる
そして、ついに僕たちはたどり着いた。
プレイパランド──。
「人いねぇぇぇ......」
どのくらいいないかって、自分たち以外にいるのがたった3組という寂れっぷり。
「......ま、まあとりあえず入ろうぜ?」
「......そ、そうね。どうせ無料なんだから、いくら酷いといっても損は無いはずよ!」
久美は、そんなとても失礼なことを言うと、いそいそと、しかしカクカクとゲートへ向かう。
「お、おいそんなに急ぐなって」
僕は慌てて追いかけ、チケットを取り出した。
入園。
びっくりするほど閑散としてる。
こんな状況で果たして儲けはあるのだろうか?
「「.........」」
しばし2人で呆然とした後、どちらからともなく歩き出した。
向かう先は売店。
とりあえず昼食だ。
「どう思う?」
「遊具次第じゃない?」
売っていたバーガーを食べながら、行動方心を固める。
「......とりあえず近くのからみて回ろう。乗りたいのあったら遠慮せず言っていく方向で」
「.........果たして遊べるのかしら?」
「流石に大丈夫だろ」
そして。
久美の不安は的中した。
-ゴーカート
「調整中だって」
「そもそも乗らねーよ......」
-ジェットコースター
「これは乗れるみたいだな」
「じゃあ乗ろっか」
少し覗いてみる。
カラフルなコースターだ。
ファンシーな曲が流れている。......ジェットコースターなのに。
でもまあ、問題はなさそうだ。
受付を通り、コースターに乗車。
ベルトはちゃんとしている。
「私ジェットコースター乗るの初めて」
「そうか」
期待しないほうがいいと思う、と言う言葉は押し留める。
そして、ついにコースターが動き出した。
ガタガタというレールを走る音に、時々ゴトンッという危なそうな音や振動があるが、全力で意識をそらす。
コースターは最上部へ。
恐怖を煽るためか、一時停車。
「ドキドキするね」
「ああ」
違う意味でな!
次の瞬間、コースターが発車した。ただし、大きな軋み音を立てながら。
カーブで、キィーというかん高い音が響く。
はっきり言って、事故しそうで怖い。
久美の楽しそうな悲鳴と、僕の恐怖から来る本気の悲鳴が園内に響いた──。
「いや〜楽しかったわ!」
「......そうか。よかったな」
本当のジェットコースターを知らなければ、僕もこんな風に楽しめたのだろうか?
-メリーゴーランド
そこにあったのは、若干塗装の剥げ始めた白馬と、少し錆びた屋根を持ったアトラクション。
いわゆる、メリーゴーランドである。
剥げた塗装のせいで、どことなくホラーチックだ。
「え?乗るの?これに?」
「うん。とりあえず乗ろっ?」
「えぇぇ......」
係員のおじさんは、にこやかにこちらをみている。
乗る
▶︎逃げる
「なんじゃ、乗らんのか?」
おじさんは、あからさまにシュンとした。
しかし、逃げられなかった! ▼
僕らが乗った後、おじさんが機械を操作する。
予想通り、ところどころ音程のズレた曲が流れ始めた。
ファンシーなんて雰囲気じゃない。これはホラーに近い。
でも、回り方には問題はなかった。
整備はされているようだ。
......少しキィキィ言い始めたな。
「普通によかったわね。...音以外」
「ああ。普通によかったな。...音以外」
-プール
張り紙があった。
「なんて書いてある?」
「んー何々?...『遊具の調節と排水設備の工事を行っています。この夏いっぱいは使用できません。プールを楽しみにしていたお客様にはお詫び申し上げます。生まれ変わるプールにご期待ください』ってよ」
「なぜこの時期に......」
と、まあこのような具合で。
プレイパランドは、ロクなアトラクションがなかった。
「......まだ乗ってないアトラクションあるけど、もう土産屋見ようか」
「......そうね」
で、土産屋。
「なんでここだけは普通なんだろう?」
「意図しない限り普通以下にならないからじゃない?」
久美の辛辣な意見。だが納得である。
しかし、値段を見てわかる。
高い。
いくらなんでも小さいキーホルダー(一個)に600円は高すぎる。
......買うのはやめておこう。
結局大したことはしてないな...
あと行ってないのも。
「運動場とゲームセンターか〜」
わざわざここまできてゲームセンターはなぁ。
「運動場行く?」
「暑いからヤダ」
「即答かよ...」
じゃあもう行く場所ねーな。
「帰るか?」「帰ろ?」
教訓。
うまい話にはやはり裏がある。
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2日後、部室にて。
「私見たの!」
「「......は?」」
川百合さんが、突然部室に押しかけてきた。
で、何かを見た話を、空原さんと紡と話している。
「.........いつ見たんだ?」
「2日前!駅で!」
ほう、2日前か。
......嫌な予感がする。
「「.........誰を?」」
「そこの2人!」
川百合さんが、僕らをビシッと指差す。
......的中か。
「私、トイレ行ってくるわ」
「ああ、行ってら...っておい⁉︎」
「......任せた」
ボソッと言い残し、久美は逃げた。
で。
3人の視線が集まる。
......えーっと。
久美が逃げたのは、実質肯定を表すし。
ドア側には──川百合さんが回り込んだし。
久美の「任せた」ってのは、つまり。
「「「どういうこと?」」」
これを、か。
「......えーっと、僕鈍感だからわかんないや」
てへぺろー。
......誤魔化されてくれぇ〜〜!
果たして──
「そこまでひどい鈍感じゃないよな?」
「わかってる癖にー」
「私の第三の目から逃れられると思った?」
「ちょっと待て1人おかしい」
──誤魔化されることはなかった。
こうして。
僕ら2人はこの週の間いじられることになるが、それはまた別の話。