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夏への約束  作者: 直帰
7/21

第7話:福引と再開

「河百合は空原(あいつ)の──元カノなんだよ」


 元カノ...と確かに紡は言った。


「僕の認識が間違ってなければ、元カノって元彼女の略だったと思うんだけど?」

「その認識で間違いない」

 紡が首を縦に振る。

 空原さんはスッと目をそらした。


 あっ、これがいわゆる...

「.....違うからっ」

 空原さんの否定。

「わたしは男子が恋愛対象だし、かなちゃんは 友達のつもりだよ?」

 ...どう言うこっちゃ。

「よしわかった整理しよう」



 空原さんと紡の説明を要約すると。

 告ったのは河百合さん。

 その告白のタイミングのせいで、空原さんは勘違いしたらしい。

 告った場所は、ある小さな総合スーパーの前。

 この総合スーパー、ショッピングモールの小型版といった感じで、この付近では数少ない学生の遊び場だ。

 そんな場所の前で言ったセリフは、

「付き合って?」

 これだけである。

 店をバックに行ったもんだから、空原さんは、買い物に付き合って欲しいんだと思ったらしい。

 だから、返事は、

「いいよ」

 だった。


 つまり大雑把にまとめると、

「(私と、恋人になる的な意味で)付き合って?」

「(買い物に付き合っても)いいよ」

 だ。

 非常に単純な勘違いだ。

 実際、空原さんはすぐに買い物ではないと気づいた。

 が、結局その日は、特に何か言うわけでもなく別れた。

 まさか恋人的な付き合うだとは思わなかったのだ。

 この日は金曜日。

 月曜日までの二日間の間、空原さんは家から出なかった。

 そして月曜日。

 噂はあっという間もなく広がっていた。

 だが、空原さんはそれに気づかない。

 その後も河百合さんとは友達の関係でい続けた。

 結果。

 晴れて空原さんは、(河百合さんの中では)カップルとなった。


 その1ヶ月後。

 噂を知った空原さんによって、クラスメイトに囲まれる中振ったという。

 それでも河百合さんはめげなかった。

 以後、空原さんは河百合さんを避け回っている。


 彼女の成績は決して良くなかったから、まさか同じ高校にいるとは思わなかったらしく、合格発表の時、後ろから「また一緒だね」と言われてびっくりしたらしい。

 だから、今も空原さんは彼女から逃げ回っているらしい。

 ちなみに逃げ回る際、不審に思った紡に根掘り葉掘り聞かれたため、彼は全てを知っている。



 僕はとりあえず全て聞いた。

 そして思った。

「よくこれまで逃げ回れてたな」

 同じ学校にいたのによくもまあ逃げれたもんだ。

「別に2週間に1回はあってたよ」

「あ、そこは普通に会ってんのか」

 それは逃げ回るというのか?

 うん。聞いてもよくわかんねーや。


「で、どーすんのアレ?」

 紡が指差したのは、目の前で話を聞かれ、少し恥ずかしそうなのになぜかニコニコしている河百合さんだ。

 あんな話を目の前でされてよく逃げなかったもんだ。

 空原さんはため息をつく。

 そして、

「どっかに捨ててくる」

 と、小声で言った。

「がんばれ。オススメは西側の駐輪場だ」

「...がんばる」

 空原さんは、げんなりしたような、それでいて起こっているようにも見える冷淡な眼をした。

 そして、ドアを開けながら一言。

「ほら、行くよかなちゃん」

 そう言って手招きすると、河百合さんはパァっと笑顔になり、空原さんの元へ駆けて言った。

 まるで犬だ。


「でもびっくりしたな」

「何が?」

 ドアが閉まるのを確認し、僕は紡と話す。

「空原さんてあんな冷ややかな目するのな」

「そうそれ!」

 久美も同意する。

 僕のイメージでは、空原さんはいつもふわふわと笑っているイメージなんだが。

 さっきの空原さんはイメージからかなり離れた感じだった。

 紡はなるほど、と頷いた。

「お前らは鈍感だもんな」

「「は?」」

「なんでもない」

 何のことだ。

 紡は目線をそらしたまま言う。

「や、さすがにさ。変な気を向けられたらいくらあいつも嫌悪感ぐらい持つだろ」

 そういうもんだろうか?

 経験ないからわからない。

 横の久美はピンときたのか、一回頷いた。

 僕にはわからんぞ?

 .........ん?もしかして鈍感ってこういう......。



「ただいま〜......どうしたの麻山くん」

 部室に戻った空原さんが見たのは、机に突っ伏した僕だ。

 手がキーボードを押さえているから、きっと画面にはアルファベットが並び続けているだろう。

 でもそんなことはどうでもいい。

「僕って鈍感?」

 僕が発した言葉に、みんなが答える。

「うん」「そうね」「鈍感だ」

 全員即答である。

 3人の言葉が胸にグサグサ刺さる。

 そうか。僕は鈍感だったのか〜。

 鋭感になれるようにがんばろう。



 その後、河百合さんが帰ってくることもなく時間は進み。

 下校時間になった。

 荷物を持ち、僕らは部室を後にする。


----

 俺──紡は梨乃と駐輪場に向かう。

 ちなみに俺たちが駐輪してるのは東側の駐輪場だ。

 西側のやつとの間には後者があるから、河百合と会うことはない。

 ......はずだった。

「...なんでここにいるのよ......」

 梨乃のげんなりした声。

「...心中お察しします」

 そこにあったのは、梨乃の自転車のサドルに頭を置き、へんな体勢で器用にも寝る河百合だった。

 彼女の頭頂部付近の髪が不自然に動いた気がした。

「......梨乃の電波を感じる...!」

「「!?」」

 梨乃がブルリと震えた。

「......私、早くここを去った方がいい気がする」

「そうか。俺もそう思ったところだ」

 二人で顔を見合わせ、頷く。


 ここからは迅速だった。

 河百合の頭を俺が、足を梨乃が持つ。

 「せーの」で持ち上げ、校舎内、玄関のすぐそこにあるベンチへ高速で運び、安置。

 屋内に置いたのは、俺たちの優しさからだ。

 そして俺たちは、大急ぎで学校を後にした。


 学校を出てから3分。

 俺たちは途中まで道が同じだ。

 そして河百合は追いかけてくる可能性もあるから逃げたかった。

 だから一緒に、無言で進み続けたのだが。

「...ふふっ」

 梨乃が、なぜか笑った。

 結構な速度も出していたのに、なぜ息切れしていないのか?

「ふふふっ、あははっ」

 まああるよな。疲れたら突然面白くなって笑いだすこと。

「あははっ、あははははっ、あははははははははゲホッゴホッゴフッ!」

「おい落ち着け」


 自転車を押して歩く。

「あー笑った笑った」

 笑ってる場合だったか?

 まあいいか。なんか楽しそうだし。


 こうして。

 河百合は放置され、梨乃はいつも通り帰った。


----

 河百合が目を覚まし最初に見たのは、なぜか、生徒指導の教師だった。

 河百合は混乱した頭で考える。

 そして。

「そうか、私はついにテレポートを取得したのか!」

(これでいつでも梨乃のとこに行ける...!)

 教師は状況を把握できなかったので、とりあえず彼女を家に帰させた。

 だがこの間も彼女はどこか上の空。

 なぜか?

 習得した(と本人が思い込んでいる)テレポートの名前を考えていたからだ。


 恋愛すると周りが見えなくなる。その上中二病に軽くかかっている。

 おまけに低成績。

 彼女は早い話、アホの子である。


----


 波乱の半日だった。

 正直今日はもう疲れた。

 昼寝したい。

 だがなぜだろう。

 窓の外から僕を呼ぶ声が聞こえる。


「商店街の福引き引きに行かない?」

 そんなものもあったな。

 ゴミ箱の横から3日前の買い物──カレーの材料買った日のやつ──を掴む。

 レシートに表示された金額の合計は、1116円。

 もちろん福引は可能だ。

 窓から外を見ると、久美が手を振っていた。

「今降りるから待ってろ」

 と言い残し、僕は階段を駆け下りた。


 日光を可能な限り避けながら自転車を漕ぐこと20分。

 いつもの商店街についた。

 商店街の中はいつもより混み合っていた。

 自転車に乗ったまま入るのは難しそうだったので、入り口近くにある駐輪場に自転車を停めた。


 ここで福引について説明しよう。

 イベント期間中、イベント対象の店(つまり商店街の店全部)はレシートの右上に赤いマーカーでラインを入れる。

 このライン付きのレシートこそが、買い物の証明。

 このレシートで千円買い物してるのが証明されると、晴れてガラガラを一度回せるのだ。

 ちなみにレシートはその後回収されるので千円で何回も回すのは不可能だ。


 福引は今日を含めて残り二日間しか開催されていない。

 さらに、一等から三等は1つも当てられておらず、全て残っている。

 だから、北海道に行きたい主婦たちが好機と見て集まっているのだ。

 僕たちは列に並ぶ。

 久美は別にレシートがあるわけではないが、隣にいてくれるらしい。

 暇じゃなくなるから助かる。


「久美は何等がいい?」

「やっぱり一等の北海道がいいかな〜。

 荘司は二等がいいんだっけ」

「うん。

 部屋にテレビが欲しい」

「旅行とか行きたくないの?」

「誰と行くんだか」

「家族は?」

「うちの両親寒いの嫌いでさ」


 なんて会話をしているうちに、僕の番が来た。

 見覚えのあるおじさんが、

「さあさあ回した回した!」

 なんていいながら金額を確認してる。

 思い出した。この人八百屋の人だ。

「千円あるな!よし回せ!男なら北海道でも出してみろ!」

 すいません。僕の狙いはテレビです。

「荘司、北海道だしてね!」

「言ってろ。僕はテレビを出す」


 ガラガラガラガラ......コン。


 青い玉が出た。

 白じゃない。つまり何かが当たったということだ。

「おめでとうございます!三等です!」

 勢いよくベルが鳴らされる。

 その音がやたら頭に響く。

「彼女の思いは届かなかったな!」

「「か、彼女じゃないです」」

「そうか!あっはっは!」

 騒がしいなこの人。

 まあいいや。

 さて、三等は...。

「三等はプレイパランドペア1日入場無料券!おめでとうございます!」

 ......プレイパランド?

「どこだよ」



「プレイパランドを知らねーのか?」

 八百屋の人が聞いてくる。

「聞き覚えはあるんですけど」

 久美も知らないらしい。

 この人は知っているのだろうか?

「あの、プレイパランドって」

「ハッハッハ!俺に聞くな!」

「知らねーのかよ!?」

 こんな時こそネットの出番だ。


 公式サイトによると、プレイパランドは最寄の駅から電車で20分+バスで30分と、そこそこの距離にある施設だ。

 レジャー施設とアミューズメント施設を足したような施設で、遊園地にプール、ゲームセンターや運動場が入っている施設だ。

 一度入園料を払いさえすれば遊園地の遊具やプールなど全ての施設が無料で使える。ゲームセンターのゲーム代は別だが。

 入園料は500円。

 なかなか良心的な値段だ。

 ここの入園料が無料になるらしい。


「三等で500円かぁ...」

「なんかしょぼく感じるね」

 だが楽しそうではある。


 有効期限は8月の終わりまで。

 良いものを手に入れた。


 帰ろうとした時。

「あ、今野菜がないんだった」

 ふと思い出した。

 思い出せてよかった。

 野菜ゼロの夕飯とか辛いからね。

「てわけで八百屋行ってくる」

「ついてく〜」

「そうか」

 久美は八百屋についてきてどうする気なんだろうか?

 まあいいや。ついてきてくれるのは嬉しいし。


 そういうわけで、八百屋に向かった。

 福引の会場にいたおじさんが店主の店だ。

 店主がいないからやってないかと思ったが、別にそんなことはなかった。

 僕たちは八百屋に入る。

「いらっしゃい」

 店内は、人が少なかった。

 とりあえずカゴを持ち、野菜を見る。

「何買うの?」

「安いの」

 即答。

 何を作るとか決めてないし。


 さて、適当に野菜を突っ込んでレジへ持ってく。

 レジの人は初めて見る人だ。アルバイトだろうか。

 その店員はバーコードを読み取らせている。

 なぜか、こちらをチラチラと見ている。

 気になるので、その店員を見る。

 大学生くらいだろうか。

 茶色に染められた髪に、緩いつり目。

「......誰かに似ている気が」

「......私も」

 誰だっけか?

 すると、その店員はボソッと小声で呟いた。

 聞こえたのは僕と久美だけだろう。

 そう思えるくらい小声だった。

「...万年睡眠中?」

「「!?」」

 その呼び名は......。

「秀さん?」

「おう。久しぶりだな、荘司くん、久美ちゃん」

 店員はやはり知り合いだった。



 秀さん。

 名前は市谷秀太(いちたにしゅうた)

 家は僕の近所。

 僕と久美の、幼馴染だ。

 大学生で、県外の大学に通っている。

 だから、今は下宿しているはずだ。

 ちなみに、僕に「いつも気怠げ」とか「万年睡眠中」とかいう不本意なあだ名をつけた人だ。


 下宿しているはずなのにここにいるということは。

 久美が口を開く。

「退学になった?」

「帰省だよ。俺をなんだと思ってやがる」

 すいません。僕も一瞬そう思いました。

「にしてもいつ帰ってきたのさ?」

「今朝」

 そう言われてみれば、今日駅に大学生が多かった気がする。

 気のせいかもしれないが、大きい荷物の人も多かったような。


 ところで、だ。

 今日帰ってきたのになんでバイトしてるんだ?

 それを聞こうとした矢先、秀さんが語り始めた。

「いや〜、久しぶりに商店街に来て見たらさ、イベントやってるじゃん?

 楽しもうと思ったら知り合いの店長が俺んとこ来たわけよ。

 人手不足らしいじゃん?

 手伝い頼まれるじゃん?

 やるっきゃないじゃん」

 ひとりでに全部教えてくれた。


 しかし、秀さんとあの八百屋のおじさんが知り合い、ねえ。

 秀さんは、先ほどひとりでに話し出したことからもわかるように、話好きだ。

 話好きな大学生とさわがしいおじさん。

 系統が近い。

 なるほど仲がいいのも納得できる。


「幼馴染のよしみで安くしてくれたりとか」

「しねーよ?」

「チッ」

「荘司くんが鋭くなってる!?」

 そんなにゆるく見えていたのか......。


 とりあえず適当に野菜を買う。

 同時に、また遊ぶことを秀さんと約束し、スマホの番号を交換し、僕たちは商店街を後にした。


「じゃあ、また明日」

「うん、また朝に」

 そう言って僕たちは帰宅した。

 そこからは何事もなく。

 日常が過ぎて行った。


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