第1話:入学前
青々と茂る木々。
遮る物のない、地上から見上げる青空。
鬱陶しい蚊。
上下線とも15分に1本程度しか停まらない駅。
そんな光景のある場所で、僕は育った。
これを田舎と呼ぶと知ったのは、電車で3駅の高校に進み、クラスメートに指摘されてからだった。
その時は正直察し始めていたから衝撃は大きくなかったが、それでもはっきりと言われて驚いたのは事実だ。
さて。
彼女がここに越してきたのは、ぼくが幼稚園に通い始めて、ちょうど一年経った頃だった。
幼稚園に、同じ地域から女の子がやって来た。
ぼくが通っていた幼稚園は、他の地域から来る園児が多い、うちの地域で唯一の幼稚園だった。
そんな幼稚園なのだから、同じ地域から通う園児と仲良くなるのは必然的と言える。
僕たちはすぐに仲良くなり、家も近いことを知った。
すぐに、幼稚園の外でも遊ぶようになった。
2人で遊ぶ日々が2年間続き、僕たちは小学生になった。
登校班が一緒だったのもあり、僕たちはまだまだ仲良く過ごす。
変化はほとんどなかった。
強いていうなら、遊ぶ人数が2人じゃない時が増えたぐらいか。
僕らは中学生になった。
地域には中学校まではあったから、町からはまだ離れない。
周りも知り合いがほとんどだったから、僕らの関係は動かず、平行線で時だけが過ぎて行った。
部活は別だったが、家の方向も一緒で、仲も悪くなかった僕らは、中学生になっても度々一緒に下校した。
2年後、僕らは受験生になる。
特に行きたいところもなかったから、とりあえずと一番近い普通科の高校を選択。図らずとも、僕らは志望校が同じだった。
合格発表の日。
僕らは一緒に高校へ行き、僕らの受験番号を探した。
僕らは、2人で喜んだ。
発表後。
僕らは2人で丘を登っていた。
桜の大木のある丘。
町が見渡せ、空がよく見え、空気の澄んだ場所。
昔、2人だけでよく遊んだ、大切な場所。
「あの、さ」
「...どうかした?」
「......いや、やっぱりいいや」
僕は言う事をやめた。
言うと後悔すると思ったから。
「え〜、何よ。気になるじゃない」
このまま押されると、きっと言ってしまうだろう。
だから僕は、先延ばしを選んだ。
「夏には言うさ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。夏には、ここで言うから」
彼女は考えるそぶりを見せ、
「そのまますっぽかすんじゃない?」
と、的を射た事を言った。
「言うからさ、安心しろよ」
「じゃあ、私も隠し事」
安心できなかったらしい彼女は、そう言うと立ち上がり言った。
「私も、隠し事を言うからさ。夏に、ここで」
「気になる事を言うね〜」
「そうさせたいんだから」
彼女はこちらに振り返り、僕を指差しながら笑顔で言った。
「だから、すっぽかさないでよ?」
まだ桜も満ちる前、春先の思い出。