それは、陰に潜む者
初夢の内容です。怖かったので供養のためにあげました。
最初に見たのは、歪んだ影だった。
多分理科で習ったんだろうけど、詳しく思い出せないが、影は光が遮られた形になると習った筈なのに、その影は酷くいびつで歪んでいた。
「――見ない方がいい」
声がした。
「それを見たら日陰に逃げなさい」
木を隠すのなら森の中。影を隠すならそれは――。
高い女性…いや、少女の声。
そちらを振り向くが誰も居ない。
ちりんっ
鈴の音がどこかから聞こえる。
思えば、それが始まりだった――。
「……っ⁉」
その日以来俺は化け物に追われる日々――いや、追われてはいないかそいつらに俺はバレてないのだから――が始まった。
その化け物はよく分からない。
もしかしたら、おとぎ話や漫画とかならいるかもしれないがそこまで詳しくないので分からないが。
その化け物は、陰に潜んでいる。
日向で、歩いている人が居れば、突然その人の影が歪んで、
しゅっ
影は大鎌の様に変化して歩いている人の首に触れる。
それだけ。
でも、それだけじゃない。
鎌の形をしていた影が再び地面に戻ると、その歩いている人は地面に倒れる。
その時の影の形は首と胴体が別れたモノ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が響く。
ああ。まただ。
日陰に隠れながら思う。
あの人は亡くなる。
何時もそうだった。
影がいびつに変化して、浮かび上がったら大鎌になる。それに殺される。
それをいつも見ていた。
見ているだけしか出来なかった。
「……まただ」
見えているのに、見えるのに。
「俺は何もできない」
見えるだけだ。見えて、怯えて隠れるだけ。
「………」
辺りは静かになった。
もういいだろう。
こそっ
日陰から日向に出る。
だが、
ミイツケタ!!
にたり
笑う影。
黒の中に見える紅。
不思議の国のアリスのチャシャ猫のように笑う影。
見付かった。
逃げなきゃ。
日陰に。
ホントウニヒカゲニニゲテイイノカ
そいつの声がする。
カゲカラデルモノニカゲノタクサンアルトコロニニゲテモダイジョウブトイエルカ?
揶揄う声。
それに騙されないと思いつつも一瞬だけ躊躇った。
しゅるっ
化け物は、俺の影に入った。
ミエルモノ。
ゴクジョウヒン。
コレヲタベレバ。
――人間になれる。
はっきりと声として響いた。
にたぁ
それは嗤う。
真っ暗な顔から俺の顔に変化して。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
誰か助けて。
喰われる。
殺される。
何度も見た。
影が伸びて鎌の様に変貌して殺されていく人達を。
原因不明の奇病という形で殺された人々を。
次は。
(俺だ)
「――だから言ったのに」
声がした少女の声。
あの時の少女の。
「死にたくない?」
尋ねる声。
当然だ。
「じゃあ、覚悟はある?」
覚悟。
「死なないために、戦う覚悟」
厳しい声。
中途半端な答えは許さないという声。
是か否か。
「戦う……」
逃げるしか出来なかった。
分かっていたのに。
見殺しにしてきた。
『俺に力があれば。助けれたのかな………』
何度も思った。
だから、
「力が欲しい…」
声が零れる。
「力が欲しい!!」
叫ぶ声。
「その声を待っていた」
化け物が迫って来ていた。死が迫っていた。
だが、
死は訪れなかった。
最初に見えたのは大鎌。化け物の鎌とは違い黒くない。
黒には黒だが、どす黒い化け物とは違い。黒と銀。黒なのに輝いている。
次に見えたのは黒い着物。喪服かと思ったが、揺れる袖には蝶の模様。
一人の少女。
「やっと会えた」
少女は笑う。
「貴方が呼んでくれなきゃ、私は出てこれなかった」
力を貸して、そう言われて手を伸ばされる。
そして――。
巨大な力。巨大な流れが自分の中から湧き上がってくる。
それに合わせるように、化け物から見える妙な塊。
「繋ぎ目。それが無いと化け物はこの世界で悪さが出来ないの」
だからそれを切ればいいの。
少女の言葉に凝視する。
「繋ぎ目……」
「そう。私は見えない」
だから教えて。
告げられて頷く。
化け物は抵抗するが、少女は鎌を振るたびに粉々に千切れていく。
もはや化け物は強者ではない。
「凄い……」
声が漏れる。
踊るように鎌を振り、戦い――いや、これは蹂躙に近い。
そして、
「そこだ!!」
叫ぶと少女が大鎌を繋ぎ目を斬り裂いた。
「あれ……」
気が付いたら少女は消えていた。
ちりんっ
鈴の音が響く。
「夢……」
答える声はない。
白昼夢。
そうとしか思えない終焉。
少女の正体も化け物の正体も分からない。
化け物はあの後も見る。だけど。
「――消えろ」
繋ぎ目を踏み付けらばそいつは消える。
傍から見れば怪しい人間だが、俺は自分の出来る事をただしていた――。
大分あいまいになった内容ですけどホラーと言っていいのかな。