目を覚ますと其処は異世界でした
真っ黒な地面がどこまでも続き、 見上げればなにもかも飲み込むかのような闇が広がっている。
突然、地面からズルズルっと真っ黒な泥で出来たような不定形な異形が現れる。
驚嘆に暮れる俺と目が合うと『異形』は一瞬ニヤッとしたような気がした。
同時に一気に俺の口めがけて体内に入り込む。
「あ゛ぁァあああ!!!!」
凄まじい痛みが全身に走る。
全身の血管に溶けた鉄を流し込まれたような未だ嘗て経験したことのないような痛みが襲う。
と、同時に 悪意 恨み 殺意 憎悪 嫉妬 ありとあらゆる負の感情が心の奥底から湧き上がる。
本能的に理解する。
これ以上この状態が続けば精神が壊れると。
しかし、打開策は何一つない。
その時であった。
何者かの声が何処からか聞こえてくる。
「………剣を」
見れば右手には古びた短剣が握られていた。
京介は躊躇いなく、それを自分の胸に突き刺した。
何故、そうしたのかと問われたら京介自身説明はできなかっただろう。
しかし、直感的にそうすべきだと思ったのだ。
短剣は一瞬にして光の粒となり京介の体の中に取り込まれていく。
それに伴い先程の激痛 心の内に荒れ狂う負の感情が取り払われていく。
「助かった……」
地面にバタッと倒れこむ。
そして、そのまま意識を闇に沈めるのであった。
▼ ▼ ▼
窓から差し込む温かな日差しにより京介は薄っすらと目を開ける。
温もりに身を任せ二度目の睡眠を敢行しようかとも思うがふと、学校からの帰り道 そして先程の夢を思い出す。
あれ? あの後どうなったんだ?
思い出すは迫りくるトラック。
轢かれたと思ったがどうなら無事だったようだ。
(てか、そもそも此処は何処だ?)
自分の家ではないことは分かる、かといって病室でもない。
キョロキョロと見渡すが目につくは簡素な家具や暖炉。
全くもって理解が追いつかない。
そうこうしていると、ガチャとドアが開く。
「目覚めたかの」
現れたのは立派な白い髭を蓄えた一人の老人だった。
「えっと……どちら様でしょうか? というか、ここは何処ですか?」
「ふははは、君と儂との仲じゃろう、敬語など要らんわ!」
「いえ、思いっきり初対面だと思いますけど。」
そうじゃった そうじゃったと笑う爺さん。
悪い人ではなさそうだが、話が進まない。
「で、此処は何処ですか?」
爺さんの顔がスッと真剣になる。
「率直に言おう、此処は君からすれば異世界じゃ。」
こいつ何言ってんだ?
俺の顔にそう書いてあったのだろうか。
爺さんはお見通しと言うように話を続ける。
「そうじゃのう、心の中でステータスと念じてくれるか」
言われた通りにする
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
種族 :吸血鬼
レベル:1
HP :34/34
MP :21/21
筋力 :19
耐久 :20
敏捷 :22
魔力 :17
知能 :18
【スキル】
異世界言語
再生
自然治癒強化
識の魔眼
【称号】
渡人
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
念じた瞬間、視界に透明なプレートが現れる。
「称号のところに渡人とあるじゃろ、それが証拠じゃ」
そんなものが有ろうと無かろうとそれ以前に地球ではこんな現象起こりはしない。
てか、ステータス突っ込みどころ満載だろ!
「すいません、なぜか種族が吸血鬼となっているのか分かりますか?」
そう言うと爺さんはバツが悪そうに額をかきながら今までの経緯を話し始めた。
「…………という事じゃ。」
話を纏めると俺は瀕死の状態で爺さんの家の前に倒れていたらしい。
それを爺さんが見つけ治療しようとしたが本人はあまり回復魔法が得意ではないらしくそれなら自己修復機能に優れる吸血鬼に変えてしまえということで実行したらしい。
しかし、人間を完全に別の種へと変えることは非常に危険が付きまとうらしく、大体は変質した魔力に身が持たず狂い死ぬのだとか。
そのために爺さんは付きっ切りで俺の体内の魔力を完全に制御し続けてくれたそうな。
なるほど、確かに夢の中で聞いた声にそっくりだ。
「すまなかったの、仕方がなかったとはいえ、儂の勝手にでやってしまって」
爺さんは俺に頭を下げて謝る。
「いえ、感謝こそすれ恨む筋合いはありません。 助けて頂きありがとうございました。」
そう言ってこちらも頭を下げる。
これは嘘偽りない本心であった。
本来なら死んでいたのだ、それを助けてもらった。命の恩人を恨む輩がどこにいるだろうか。
「僕の名前は無識京介といいます。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「おお、儂としたことが自己紹介すら忘れておったわ、儂の名はヴォロ=シベリア まあ、好きなように呼んでくれて構わんよ、それと儂に対しては敬語など使わんでいいぞ」
「分かりま———分かったよ、ヴォロ爺、僕のことはシキとでも呼んでくれ」
ヴォロ爺は満足気に頷く。
「それじゃあ、食事にでもしよう、シキも聞きたいことがたくさんあるじゃろう」
そうして、二人はキッチンへと向かっていった。