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八十一の曲〜怒りと憎しみと祈り唄〜

ユーリの手首に巻き付いたのは真っ黒な蛇。蛇はシューシューと声の主を威嚇する。とユーリの片目が赤黒い色に染まり出した。


「!!誰かっ、ユーリを止めろ!」


ヴァルムが叫ぶ。その間にユーリはギリギリと手に力を籠める。声は愉快そうに嗤う。


『ほら、その「力」。あの子に嫌われ放題だな』

「黙れっ!知ったように彼女を“語る”なっ!」


そうユーリが叫んだ時だった。ソラリスがユーリを後ろから羽交い締めにして引き剥がした。


「ユーリやめろ」

「なに?!離せよ!?離せっ!」


ソラリスの腕の中で暴れるユーリ。それを見てフードの主は愉快そうに再び嗤う。


『助けたかったら真実を知るんだな?アハハ!完全な【身代わり姫】、不完全で破壊された【祈り姫】。次に堕ちるのはあんたかな?アハハh』


ーザクー


フードの主の首元を何かが掠めて行った。壁を見るとそこにあったのは刀。光輝く刀だった。投げたのはユーリのようだ。抑えていたソラリスすらも驚いている。


「…ふぅ…ナオが【光の戦士】で【身代わり姫】なら…ウチは…いや、オレは【闇の戦士】で、【語り部】だ!」


瞳に怒りを宿すユーリに主は鼻で嗤う。が自分以外が怒りを宿しているのに気づくとまた嗤った。


『そうか…なら、真実に喰いつけばいい!嗚呼、もう一つ、面白い事を教えよう…ベータは死んだ。アハハ!』


その声共に主は消え、その代わりにヴァルムが作り直した鏡が突如として現れ、表面が歪んだ。

バース兄弟は最後にあいつが言っていた言葉に驚きを隠せずにいた。塔の崩壊後、ずっと姿を見ていなかったが…もしかして、あいつに?


ソラリスが落ち着いたユーリを離すと今だ彼女の片目は変色していた。


「ユーリ」

「行くでしょ」

「は?」


ユーリの言葉に誰かが声を零した。


「ナオを助けに。あんな奴に踊らせられてたまるか。堕ちた?はは…堕ちるのは犠牲が少ない奴だけなのに…馬鹿じゃないのかな…」

「落ち着いてよユーリ。何言ってるの?」

「「そうだよー変な事言ってるー」」


なんだが変なユーリにルルと双子が言う。ユーリは変色した片目でルルと双子を見やる。


「当然の結果を言ってるだけだ。ナオは犠牲になるべき人じゃない。犠牲はオレだ。【歯車】として堕ち、【語り部】として姫の一生を守る……“騙す”のはオレの醍醐味さ」


『ブラックローズ』の副リーダーはナオのように誰かを救おうとして奈落の底まで堕ちようとしていた。ナオが【身代わり姫】に最初になったのが不完全としたら、今のユーリは不完全だ。


「犠牲が少ないとかの問題ではないでしょう?!」

「兄さんの言う通りだよ!」


アルファとオメガが言う。が今のユーリは不完全なキャスト。完全な【身代わり姫】となったナオとはまた訳が違うのだ。


「犠牲は全てに付き物。失うモノがない人がなるべき犠牲キャスト。なぁ、こんな「力」なんてオレは要らなかった。ナオを救えるのなら…騙すことだっていとわn「いい加減にしろ!!」」


ユーリの言葉を遮ってソラリスが叫んだ。その瞳に宿るは怒りか同情か。ユーリは興味なさそうに彼を見る。


「お前もナオも溜め込み過ぎなんだよ!ちっとは仲間を頼れっ!!」


ソラリスの叫びに一瞬、ヴァルムがビクンとはねた気がしたが気のせいだろう。みんながソラリスの言葉に力強く頷く。が、ユーリの反応はない。


「頼ったらなにが変わるっていu『無力な『私』にだって出来ることがあるならば♪』…へ?」


突然、響き出したナオの歌声。その声にユーリの動きが止まり、頭を抱えて唸り出した。みんながなんだなんだと彼女に近寄る。


此処にいないはずのナオの声…落ち着くけれど、それ以上に“感情”が溢れ出す…!


誰一人として気づいていなかった。フードの主の首に傷を付けたもう1本のユーリの武器に。その武器から霧が溢れ出たかと思うと唸るユーリの目元を包み、動きを止めた。


「ユーリ?!」

「………ま…」

「え?」


心配する声が響く中、弱々しく響き渡るユーリの声とナオの美しくも力強い歌声。


舞草まいくさ…」

『さて、交代の時間だよ』


その途端、ユーリの意識は暗闇に飛んだ。


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