七十四の曲〜手を組んでいた青年と…〜
「っ!」
「…はぁ!」
ガキンとヴァルムは相手の剣を弾き返した。無防備なその姿の腹に横蹴りを加え、吹っ飛ばした。相手は木の荷車にぶつかって地面に倒れた。そこでヴァルムは気づいた。この村に荷車はないと言うことに。きっとならず者達が乗って来た荷車だろう。幸いにもヴァルムの方は4人よりも敵が少なかった。彼はその荷車に近づき、暗幕を開けた。
中は暗い。背後から日光が入って来る。
「…うっ」
ヴァルムは中の異臭に腕で鼻を隠した。ヴァルムは一瞬でなんの臭いか検討がついた。この臭いは血だ。何度も嗅いだ、忘れることができない戒めのような臭い。
ヴァルムは目を凝らして中を見る。そして見知った模様を見つけてしまった。いや、まさか。そんな訳…!
ヴァルムは中に駆け込むとそれを目の前にする。目隠しをされ、口元には布を噛ませて声が出ないようにしている。手首は背中で一括りに結ばれ、足首も一括りに結ばれており、逃げれないようにしている。そして所々にあるのは傷。血が滲み出たままなのが多く、何があったかだなんて想像したくない。
ヴァルムは剣を納め、近くのそれら…一人の目隠しと口元の布を外した。
「っぷは。兄さん達を傷つけんなr…ってあれ?主?!生きてたんですか?!」
「やっぱり…シータ!無事だったんだな!良かった!」
「主もよくご無事で!って今それどころじゃない。主!ガンマや兄さん達の縄解いて上げてください」
「分かった」
それはかつての部下、シータ・バースだった。両者ともに無事だったことを喜ぶ。ヴァルムはシータの縄を外し、彼の他の兄弟、かつての部下の救出に取り掛かるが、
「っ。なに、コレ…あいつらこんなことしたの?!」
傷がもはや傷といってもいいのだろうかというほど酷かった。一番酷かったのは長男アルファ。だいだい血は止まっているがグロいほどに黒いし、酷い。弟達を守ったのだろう。気を失っていた。その方がいいのかもしれないとヴァルムは思った。
「…あいつら、僕たちが怪我して動けないのをいい事に毎日、鬱憤払しに怪我させたんです。その度にアルファ兄とオメガ兄が僕たちを庇って…くそっ」
シータが悔しそうに顔をしかめ、唇を噛み締める。それをガンマが押さえて押さえてと背中をさする。
人間の中には魔物を捕まえて研究する者が多いと聞くが…人の形を持つ彼らを傷つけるなんて…
(あっていいのか?)
ヴァルムはこちらも気を失っているオメガの縄を外しながら怒りで拳を握り締めた。双子も2人も傷が深い。無用意に動かせば止まっていた血が再び流れ出す危険性もある。ヴァルムはバッと立ち上がり、暗幕を開けると外で戦っている彼らに叫んだ。
「そいつらのボス、ぶっ殺して!」
「「「「ダメ(!)」」」」
怒りをぶつけようとした模様だが即却下された。ヴァルムはナオによって倒れたボスらしき男に向かって右手の人差し指を出す。
「呪詛」
人差し指から紫と黒、そして赤の不気味な小さな球体がふよふよと浮かび上がるとその男に吸い込まれた。ヴァルムは腕を下ろして
「これくらいはいいでしょ」
としてやったりと口元を歪めた。
「ナニ〜?主、ナニやったんです?」
「ガンマ!」
「?!」
ヴァルムがなにをしているのか気になった双子が彼の所にやって来た。ヴァルムはヤバイと思ったがもう遅い。双子は暗幕から顔を出し、そこら中に広がる気絶した男達の山と『ブラックローズ』を見て叫んだ。
「「…殺す!!」」
「殺さなくていい!殺さなくていいから!!」
憎しみを含んだ声色にヴァルムはこれは本当にヤバイと双子を宥めた。
その後、男達を縄で縛り上げて近くの自警団を持つ村の自警団員に放り投げ、一件落着となった(その後、男達は大きな都に連行された)。がまだ問題が残っていた。ヴァルムの以前の部下達である。ヴァルムの事情とナオの話からなんだかんだヴァルムの部下はイイ奴らが多いんじゃね?という仮説が残り3人の中で出来上がっていたので問題なかったが主を捕らえているんじゃ?と疑う兄弟達が問題であった。
兄弟達の傷の手当てをし、気絶から目覚めた2人と共に『ブラックローズ』での出来事をヴァルムは話した。
『ブラックローズ』のおかげで僕は変わったと思う。次期魔王候補者なんておおそれた者ではもうない。だからもう、自分に従わなくていい、と。
それに兄弟達は「時間をくれ」と言った。牧師は「もう部屋がない」と言った。というこうことでかつての敵と同室になったわけである。
急展開だ(頭抱え)。byナオ
スランプ プラス 終わる前までにやんなきゃいけない事…多いよぉおおお!!!




