六の曲〜さあ、今夜の戦闘を〜
戦闘シーンを書くのは楽しいです。
大きな剣を振り回し、ナオは一気に魔物数体にトドメを刺していく。魔物はその隙を狙って彼女に攻撃してくる。
「ガゥ!」
「おっと」
狼の姿をした魔物がその鋭い牙をナオに向けた。それを彼女は大剣で防御するが、防御で終わる彼女ではない。ナオは超攻撃タイプ。彼女にとって防御も攻撃という名のスキルに変わる。
「新羅悪技!」
“大剣士”のスキルである1つを口にすれば、防御していた大剣は瞬く間に悪なる黒い霧を纏う。バッとそれで魔物を振り払えば、魔物に大剣を振ったわけでもないのに一撃を加え、倒した。これには他の魔物もびっくり仰天で目を丸くした。
そんな中、ポワンッと可愛らしい音がしてナオを黄緑色の光が包み、軽傷を癒す。
[新羅悪技]、“大剣士”特有のスキルで武器に悪なる霧を纏わせ、敵に攻撃するとその敵に悪なる一撃を加える。そして一撃を加えた分だけスキル使用者のHPが回復する。
ナオは魔物が自分を遠巻きにしたのを見て情けないと鼻で嗤い、悪なる霧を纏った大剣を肩に担ぐ。
「来ないのか?怖気づいたか?」
来い来いと左手の人差し指を動かす。ジリジリと魔物が動き出す。ナオが大剣を構えると魔物の一体が牙を向いて飛びかかってきた。それを大剣で薙ぎ払うと大剣に纏っていた悪なる霧が消えた。時間切れのようだ。
魔物の一体が後ろからナオに襲いかかった。それをナオは上へ跳躍し、魔物の背後に回って回避するとその魔物に一撃を加えた。魔物が群れの中に後ずさりする。魔物が一斉にナオに襲いかかろうとタイミングを測っている。それに気づかないナオではない。ナオは大剣を構え、様子を伺う。
「ウガァアア!!!」
「はぁああ!!!」
ナオと魔物数十体が刃物を交えた。
「憑依、綾丸」
ユーリがスキルを発動させると左手に握っている妖刀が紫色の光を放つ。その光はユーリの左目に吸い込まれ、その左目から禍々しいほどの妖気を放つ。それに周りの魔物は一瞬、狼狽える。
「さぁーて、今夜は綾丸の独壇場。行くよ!」
バッと素早い速さで魔物の群れに突っ込むとすかさず魔物の急所を仕留め、倒す。次々と攻撃するタイミングを与えずに倒す。
[憑依]、刀を使用する職特有のスキルで刀に宿る力をスキル使用者にその名の通りに憑依させ、戦う。
「グァアア!!」
背後からユーリに襲いかかる魔物の魔の手。ユーリはそのままでいた。ズサッとユーリが切られるが、それは霧となって消えた。驚く魔物。
「こっち!」
その声に振り向いた時には魔物はもう、倒れていた。ユーリが魔物の背後にいつの間にかいた。左目は不気味なほどに紫色に光る。妖刀である綾丸の力は霧と影。つまり今のユーリは霧であって影。攻撃など当たらない。
ユーリはバッと再び、魔物の群れに突っ込んで次々と倒していく。魔物の数体が後ずさる。それを見てユーリは憑依を強くさせながら大きく跳躍し、数体の魔物に頭上から攻撃した。
***
「ユーリー終わったか?」
倒れた魔物の背に足を置き、大剣を担いでいるナオ。そこに今だ憑依したままのユーリがやって来た。
「うん、終わったよー」
左目から妖気を放つユーリを見てナオは顔を歪めた。
「ユーリ、悪いけど憑依解いてくれないか?怖い…」
「えっごめんね!」
ナオのお願いにユーリは慌てて憑依を解く。と左目はいつも通りに戻った。
左目から妖気を放つユーリはゲームの中で何度も見たがこうも現実に見るのは初めてだ。初見はちょっと気持ち悪い。
「憑依って面白かったよ!てかメッチャスッキリした!!」
えっへんと胸を張って言うユーリ。それに俺もだとナオが頷く。魔物の背から足を退かし、周りを見渡す。見渡す限りの家々には魔物による被害が出ているようだ。自分達がいた宿は運のいいことに被害が出ていない。よく見れば村のシンボル的な教会だけが被害が出ていない。宿と距離が離れていて、被害が大きい家ととても近い。普通、その家同様に被害が大きいはずなのに…
「ユーリ」
「ん?なぁーに?」
ナオは教会を指差す。ユーリも気がついたようだ。“無傷な教会に”。
「変だねー教会だけ被害なしって!」
「あのカミ野郎の仕業か?」
「ないと思うよ。強制的に執行しちゃうカミサマだよ?魔物が独断でやったって考える方が良いと思う」
うむとナオが悩む。
多分、これはカミが仕向けたものではない。それに魔物が独断で動くというユーリの考えも少し考えにくい。だってあんなに連携が取れてたのに。
「誰かの差し金か誰かの指示かも」
「誰かの指示って誰?カミサマに見せてもらったあの子?」
「ありえるな…」
2人はなぜ教会が無傷なのか考えた。無傷な宿と被害が大きい家。被害が大きい家に近いのに被害はない。なぜだ?
「あれ〜?」
「倒された〜?」
その声に2人は声のした方向、教会を見た。屋根の上にある十字架に月光によって見えるある2つの影。2つの影はバッとそこから跳躍し、2人の数十m手前に着地した。
「誰だ?」
ナオとユーリが武器を構える。月光の元に姿を現したその2人は敵だ。直感的に2人はそう思った。
「えー?」
「僕たち?」
2人はクスクスと笑いながら話す。
「僕たちは」
「偉大なる」
「「次期魔王候補者及び魔王軍第六部隊隊長様の忠実なるしもべ」」
月光が4人を照らしていた。