六十三の曲〜教会で紡がれる唄〜
「ないねー」
「野宿か?」
「うわぁ、やだ」
一向に宿が見つからない一行。そろそろ夕暮れ時、夜になってしまう。再び、教会の前まで戻ってきてしまった。と、扉を開けて老人が姿を現した。立派な白ひげを生やし、優しそうな瞳をし、十字架の模様が入ったローブを来た老人。牧師だろうか?老人は一行に気づくと優しい笑みを浮かべた。
「おや、旅のお方かな?こんな古びた教会の前でどうしたんだい?」
「宿がなくて困ってるんです」
「何処にあるか知りませんか?」
ナオとユーリが聞くと老人は申し訳なさそうに言った。
「すまんの。此処に宿屋はないんじゃ」
その答えに一行は肩を落とした。野宿か…と。だが次の老人の言葉で野宿はあたかたもなく消え去った。
「良ければわしの家に来るかい?狭いが食べ物と寝具は提供してあげれるが」
「いいのおじいちゃん?!」
「こら、ルル!…いいんですか?」
喜ぶルルを抑えながらソラリスが困惑した表情で迷惑ではないかと尋ねる。老人は優しく大丈夫だと頷く。
「いいんだよ。その代わりと言っちゃあなんだが、爺さんの昔話を聞いてくれないかい?寝る前のお話に、ね」
それを承諾し、一行は老人の家に世話になることになった。
老人は教会の牧師だったそうだ。“だった”ので今は引退してのんびりと過ごしているらしい。が老人は待っていると言う。ある、愛した女を。もう会えないだろうが来てくれないかと待っていると言う。その女が老人が寝る前にお話してくれる物語の登場人物の一人だった。
***
夜が深まる中、牧師のおじいちゃんの昔話が始まろうとしていた。大きな木製のテーブルを囲み、目の前には並々とホットミルクが入ったコーヒーカップ。
ナオは髪を解いて、軽装に。ユーリはお団子頭でマントを羽織り。ルルは帽子を脱いで今日寝る寝室から持ってきた毛布を被り。ソラリスはセミロングの髪を一つに後ろで束ね、軽装で。ヴァルムは髪をそのままに着ていたローブに包まり。
みんな思い思いの格好で牧師の昔話を楽しみにしていた。楽しそうな表情を見せないソラリスやヴァルムも内心ワクワクしているようだ。ユーリとルルはワクワクし過ぎでナオに怒られたが。
牧師は明るく光るランタンの光を見て、話し始めた。
ー自分が愛した女とその昔話をー
あれ…終わりが…見えなくなって…
まだいける…




