四十六の曲〜『幻愛の唄』〜
「なーおみんっ!」
「ユーリ」
ナオは背後からかけられた声に振り返った。
「ユーリ、ありがとうな。助けに来てくれて」
「いいえー!なおみんはウチの大切な友達だもん。助けるのはとーぜーん!」
えへへと笑いながらユーリが言う。それにナオもつられて笑う。が今のナオには思いっきり笑うことができなかった。
「……ヴァルムのこと?」
「え?顔に出てたか?」
「いやー。なんとなーく?」
悪戯っ子のようにクスクスと笑うユーリ。
「なおみんは心配症だね。行ってくれば?ウチもさっき行って来たし」
そう言ってヴァルムが行ってしまった方向を指差すユーリ。ナオは自分より先にユーリが行ったことに驚いた。
「アハハ、なおみんったら驚きすぎー!ほぉーら早く早く!」
今日はやたら顔に出るらしいなぁとぼんやりとユーリに思考を見破られたことを気にしながら、ナオはヴァルムがいる方へ歩みを進めた。
「………♪」
ユーリは嬉しそうに鼻歌を歌いながら夕食の準備をしている2人に向かって歩いて行った。
***
「〜〜〜♪」
歌声が聞こえた。“彼女”と同じように美しく、儚い歌声。だが生気は感じられない。
ヴァルムは湖の近くにいた。両腕を湖へ向かって伸ばしながら歌っている。ナオには気づいていないようだ。
「♪光と愛を求め、焦がれながら、ただひたすらに求めて詠う 愛を乞いひかr…何してんの?」
とヴァルムが横目で彼女を見据えた。歌声は止まってしまったがやまびこが起こっているのかかすかにまだ聞こえている気がする。
「いや、お前の様子が気になって、来た」
「…フン。本当に罪人の言葉なんか信じるのか?」
鼻で嗤い、蔑むように言うヴァルム。それにナオは湧き上がると思っていた怒りがないことに内心驚きながら彼に近づき、言った。
「……ずっと信じることが怖かった俺が世界に来て大きく変わった気がするんだ。だからかな。信じることが怖いのに信じてしまうのは…こんな理由じゃダメか?」
「………さぁ…僕には分からない。君の心が思う通りにやればいいんじゃないの?」
ヴァルムの答えにナオは少し微笑む。
「嗚呼」
ナオはヴァルムの手を取ると言う。
「さあ行こう?俺にとってお前も“信じる”対象なんだ。他の奴がいても一緒だろう?」
笑顔で言うナオにヴァルムは少しほうけ、少し頬を赤く染めながら彼女から視線を逸らした。
「…………」
「ヴァルム?」
「…君の好きにすればいいさ…」
「良かった」
そう言ってナオはヴァルムの手を引いてみんなの方へ向かって歩く。
「…………好きだよ(ボソッ」
「ん?なんか言ったか?」
ナオが何か聞こえた気がして彼を振り返る。ヴァルムはぎこちない笑みを浮かべ、言った言葉を隠す。
「…謝れば許してくれるかな」
ナオは驚いた。ヴァルムが謝ろうとしている。次期魔王候補者としてあの城にカミサマに復讐するがために君臨していた彼だったが何か思うことがあるのだろうか。彼の部下達と同じように誰かを思いやる気持ちが芽生えたようにナオは感じた。
「許してくれるさ!」
にっこりと笑うナオ。その笑みはヴァルムにとって“姉”を連想させた。
「………うん」
***
「“信じる”?それは【光】にしか与えられない想い、行為。【闇】は“信じる”ということは出来ないに等しい……でも“あの子”は違う。【光】に焦がれ、自身を隠した挙句に【光】を吸収してしまった。そして【光】は【闇】の救世主になり、その力によって【光】は希望となった。だがこれは表向きの、偽りの物語に過ぎないのです…そう、“あの子達”の物語に過ぎない…(クスッ」




