一の曲〜最強の2人〜
ーバンッ!!ー
画面にゾンビの返り血がへばりつく。が画面は切り替わり、暗い画面に金色の文字で『You win!!』と表示される。それを見た通行人は息を止めた。だって『You win!!』の下に表示されている点数は最高ランクの19万越えだったのだから。
通行人を驚かせた張本人は重たい腰を上げ、コントローラーの模造品の銃から手を外す。ランキングの1位に堂々とネームが表示される。ローマ字で『MAIKUSA』と書かれている。その者は終わったーと言わんばかりに背伸びをするとショルダーバックを肩に掛け直し、近くのベンチで携帯をいじっている少女に向かって歩み出した。
「なおみんー!終わったよーてか何見てんの?」
「ん?刀○乱舞の人。名前もまだ覚えてないのに次々出てくるから困ってる」
「またぁー?ねぇまだウチの愛刀は出ないのー?」
「永遠に出ん」
「嘘だー!!。・゜・(ノД`)・゜・。」
少女は携帯をポケットにしまうと立ち上がり、「行くぞ」と人差し指でここ、ゲームセンターの入り口を示した。それにその者、少女も「ok!」と笑う。
そして2人の少女達は楽しそうに会話をしながらゲームセンターを後にした。
「……ん?“なおみん”?“MAIKUSA”?……!!ああああああああああああ!!!『ALUTAPARN』でお馴染みの上位常連者チーム『ブラックローズ』じゃねぇかああああああ!!!!」
その誰かの叫びにそこにいた数十名が絶叫したことを彼女達は知る由もない。
***
“なおみん”とは彼女の相棒が呼ぶ彼女の愛称、“MAIKUSA”とは舞草刀を愛刀と豪語する少女の最強武器。
2人のアバター名は“ナオ”と“ユーリ”。『ALUTAPARN』のプレイヤーの間(他のゲームのゲーマーの間もだが)で有名な団体チーム『ブラックローズ』である。
『ALUTAPARN』とは世界中に絶大な人気を誇る大規模多人数型オンラインRPGゲームだ。基本的に携帯でもパソコンでもテレビゲームの機械でもゲーム端末機でもこのゲームをダウンロードすれば誰でも遊べるのと自分だけの世界にたった一つしかないオリジナルスキルを4つほど作れることも人気の秘密だ。
ゲームの最初に自分となるアバターを製作するところまでは他のゲームと同じパターンだろう。だがこのゲームはその最初が肝心なのだ。性別、名前、服、髪型、髪色、体型と決めた先に待っているのはおよそ50からなるメイン職の設定だ。メイン職はこの次に選ぶサブ職と違い、一生変えられないので悩みどころだ。サブ職はメイン職に選んだ以外の中から2つ選択することが可能だ。つまり、メイン職が支援職であってもサブ職で攻撃職を選ぶことも可能なのだ。ここまでの大規模なアバター設定が終われば、『ALUTAPARN』の世界へ足を踏み入れることが出来る。
『ALUTAPARN』には2つのルートが存在する。1つはギルドを作ってみんなとワイワイ冒険したり、一人で黙々とクエストに取り組めたり出来る、『ゆっくりモード』と『ALUTAPARN』に組み込まれているレベル(星)付きのストーリーを遊ぶ、『ストーリーモード』がある。
『ゆっくりモード』も『ストーリーモード』も誰がどのくらい進んだか、誰がどのくらいレベルが高いストーリーをやっているかがランキング形式で表示される。オンラインなので世界中のプレイヤーと競争や気に入ったプレイヤーと協力プレイが出来るのだ。
ランキング形式には個人と団体がある。『ストーリーモード』にはレベルが上がると団体でストーリーを遊べる権利がつく。団体がokになるということはこの先、難しいということだ。難しいために団体を作らせる。そのため、『ストーリーモード』にも団体がある。
その団体で上位常連者チームの一つが上記でも記載した『ブラックローズ』である。
『ALUTAPARN』は世界中の人々がたくさんプレイしてくれたお礼にと“第一回 『ALUTAPARN』個人戦&団体戦トーナメント”を開催した。その大会は今後も続いたのだが、その第一回と第二回の団体戦で『ブラックローズ』は2回連続優勝を果たした。それが彼女らを世に(ゲーマーの間ではだが)知らしめる結果となったのである。『ブラックローズ』は学生でしかも2人ということで第三回から第十回まで参加を見合わせていた。が先月行われた第十一回で『ブラックローズ』は再びこの地に現れ、颯爽と以前と変わらない…いや、以前よりも強くなった姿で優勝賞品と優勝限定装備品を勝ち取った。『ブラックローズ』は『ALUTAPARN』の女性プレイヤーの憧れの的、男性プレイヤーの高嶺の花であった。
「なおみんーコントローラー貸して。繋いどく」
「ん。ありがとう、悠龍」
「いいってことよ!」
そう言って悠龍と呼ばれた少女はもう一人の少女、奈緒実からコントローラーを受け取り、テレビゲームの機械に繋いだ。奈緒実は近くのテーブルに置かれたお菓子を摘まむ。
今、2人がいるのは黒沢家、悠龍の家である。今日は2人でクエスト三昧だ。
「ん〜?」
悠龍がお菓子を食べている奈緒実の代わりにとスタートメニューまで2人分のアカウントを入れて進めていたのだが、可笑しな点を見つけ、声を上げた。
「どうした?」
奈緒実がお菓子を食べる手を止めずに聞く。悠龍は答えた。
「『ストーリーモード』の最高レベルって星20じゃん?なんでか星21があるんだけど」
悠龍の言う通り、『ストーリーモード』の最高レベルは星20まで。だが今、彼女が見ている画面には暗い中に『星21』と書かれたトランプが浮いている。
奈緒実はうーんとそれを見て考えるとお菓子を食べる手を止め、テレビ画面とにらめっこをしている悠龍の隣に座った。
「この間の優勝賞品の一つじゃない?」
「うーん…そうかなー?」
「まぁ、押してみたら?」
「うん!そうだね!んじゃ、ポチッと!」
悠龍がコントローラーを操作して、『星21をプレイしますか?』という問いに『Yes』を押す。
とテレビの画面から眩いばかりの光が2人に向かって放たれた。2人は驚愕の声を上げながら目を覆う。光が2人を包み込んだ。
投稿は前回(前回書いた話)よりもゆっくり、マイペースに行きたいと思います。