十三の曲〜勝負がついた行方〜
意外に遅いぞ進行が…。自分のせいですけどね!
ユーリVSソラリスはユーリの勝利だった。次は、ナオと少女の番だ。
少女がソラリスに「もぉー!」という感じに怒って(?)いる。それをソラリスは落ち着けと頭に手を置く。
「なーおみんっ」
「ん?」
「無理、しないでね」
キョトン…とユーリの言葉に目を丸くし、クスリと笑うナオ。ナオはユーリに手を差し出す。それをユーリは「アハっ」と笑ってパチンッ!と叩く。
「大丈夫だ。俺は負けん」
大剣を担ぎ、前へ歩み出ると少女も杖を両手で持って歩み出た。
「ソラが負けてもボクが負けてもどうせ、キミ達が勝つんだろうけど。でも!頑張るんだ!」
少女がギュッと杖を握り締める。
それにナオは何かを感じた。今までの奴らは負けそうになったらすぐに諦めた。でも、この子は…こいつらは諦めようとはしない。むしろ精一杯頑張ろうとしている…。
「俺は『ブラックローズ』が一人、ナオ」
ナオも名乗る。それに野次馬は再びざわめき出す。少女は嬉しそうに笑い、言う。
「ボクはルル!よろしくね、ナオちゃん!」
「……ナオちゃんはやめてくれないか…?」
「あっ…ごめんね。じゃあよろしくナオ!」
「こちらこそ」
ナオは大剣の切っ先をルルに向ける。
ルルと名乗った少女はクリーム色のロングヘアーでヴェーブがかかっている。頭に真っ黒な魔女がする三角帽子(紫のリボンと花付き)をし、服はこちらも真っ黒な魔女服。ふわふわとフリルがふんだんに使われており、魔女服よりも現代のゴシック・ロリータというファッションに近いかもしれない。靴はこちらも真っ黒なブーツ(ヒールは3cmほど高くリボン付き)。
ルルは長さ約60cmの杖の先に紅いひし形が埋め込まれた可愛らしい杖をナオに向ける。
「なおみん頑張れー!」
「頑張れよ」
両者の応援が聞こえる。
そして、勝負の幕がルルの突然の一撃で切って落とされた。
「地獄火!」
「!あんのバカっ」
ルルの杖の中心から紅い炎が作り出される。それを見てソラリスはこめかみを押さえた。
紅い炎がルルの背後へと何個にもなって散らばる。ルルが杖の先をナオに向けた。
「行っけぇ!」
炎はナオめがけて飛んだ。ナオは大剣を構え、柄を握りしめた。
「春嵐六花・桜花!」
フワンと可愛らしい音がしてナオの大剣を桜の花びらが包み込む。それをブンッと炎に向けて降ると花びらは大剣から離れ、炎を優しく包み込んで消していく。
「あれ?!う、う〜〜!じゃあ、水竜!」
ルルが天高く杖を上げる。とそこに水が集まり始める。ナオはバッとそれさえ気にせず、ルルに一気に迫る。
「うぇ?!」
「香舞」
彼女がフゥ…と自らの息を風に乗せる。ナオの吐いた息が紫色の甘い香りとなってそこらじゅうに一瞬で広がった。一瞬にして消え、効果なんぞどこにある?という感じで皆には効いていなかったがただ一人、効いていた者がいた。ルルだ。
「えええええ??!!!どうなってんのぉお?!」
身動き一つ取れなくなったルルが困惑気味に叫ぶ。それを見てソラリスは「ハァ…」とため息をついて片手で顔を覆った。
[香舞]は対象のみの紫色の香りで動きを封じる忍者のみが持つスキルでそのスキルにルルはやられたわけだ。
ナオは驚くルルの首筋に大剣の切っ先をつけた。
「はい、終わり」
「ま、負けたぁあああああ!!!」
***
2勝した『ブラックローズ』、圧勝である。野次馬は負けたこの2人を内心嘲笑っていた。弱い魔法系職のお前らが調子に乗るな、と。負けて当然だ、と。
だが彼らの期待はすぐさま裏切られることになる。
「お前ら、『ブラックローズ』に来るか?」
「おいでよー!歓迎するよ!」
その2人の言葉に野次馬はおろかルルとソラリスも止まってしまった。
「い、いいの?」
ルルが少し怯えたように聞くとナオがそれこそ不思議そうな顔で言った。
「イヤか?俺達は、いや俺は負けるとしても諦めずに戦う意志が気に入ったんだよ。だから、2人を仲間に入れたいと思ったの」
「ウチも仲間が増えるのはメッチャ嬉しい!」
ユーリが笑顔でルルとソラリスを見る。2人は顔を見合わせ、糸が切れたように小さく笑う。
「入りたい!改めてよろしくね!ナオ!ユーリ!」
「こっちもよろしく頼む」
ルルが嬉しそうにナオに抱きつく。ソラリスが片手を軽く挙げて言う。ナオは少し背の高いルルを受け止め、クスリと笑う。ユーリもソラリスの挙げた片手にハイタッチしながら笑う。
「「よろしく(!)」」
集まった野次馬の中では良かったなぁとその光景を微笑ましく眺めている人とそうではない人がいた。そう、後者の方は『ブラックローズ』に負けた者たちである。
「なんで?!なんで負けた攻撃職の俺たちじゃなくそんな弱っちい魔法職の奴らを選ぶ?!」
そう言って野次馬の中から現れた『ブラックローズ』に負けた負け犬の一人。彼は新たな仲間、ルルとソラリスを強く睨んでいる。それにルルから離れたナオが答えた。
「お前らはただ単に優勝した俺達の中に入って『自分も優勝した』、『強い』ということを『冒険者』に位置づけたかっただけだろ」
「それに、実力を勝手に上乗せして、自分の意志よりも欲を優先した。仲間にするのはあんまりいい気はしないね。関係怖いし」
ユーリが続けて言う。その顔に笑顔はない。
負け犬達はグッと下唇を噛み締めた。そうだ、自分達は自分の欲を優先させていた。彼女達はそこまで感じとっていたというのか。
「異論は?ないならいいが……俺達に……俺とユーリに勝とうと思わないことだな、負け犬ども」
ナオの冷たい視線が負け犬達を貫いた。