十二の曲〜仲間を選びましょう〜
お久しぶりです。ゆっくりし過ぎました。
『冒険者』VS『冒険者』専用フィールド、通称BSBに4人は足を踏み入れた。それを見ていた他の『冒険者』が野次馬で集まってくる。というよりもここ数日は見慣れた光景になっているのだ。優勝チーム、『ブラックローズ』に入ろうとする弱者がボッコボコにされるのは。
この前の試合は大変、すごかった。相手の2人をナオが一発KOしたのだ。
BSBは土で出来たフィールドで観戦者の安全面にも配慮して、一応紐と棒で作った簡易な柵がある。フィールドの大きさはコロシアムと同じ大きさだ。
「試合は2回勝負、2回とも試合を行い、勝者が多い方を勝者とする……いい?」
ナオが大剣を肩に担いで言うと相手の2人はコクリと頷き、武器を持った。
「俺が同時バトルするか?」
「いや、俺はそいつと戦いたい」
少女の前に歩み出ながら男性がユーリを示して言った。ユーリは「ウチ?」と驚いたように首を傾げている。ナオはユーリを振り返ると男性に視線を移す。
「………いい。けど」
「けど?」
ナオはニヤリと笑って言った。
「“背後に気を付けな”」
そして横にずれるとユーリが2本の刀を持って前へ進み出た。男性は自身と同じ長さの杖を握り締める。その杖は木で出来ており、先が丸くなっていてその中に赤色の水晶が入っており、太陽の光に反射してキラキラ光っている。
ユーリは2本の刀を持ちながら腰を少し落として男性に礼した。
「ウチは『ブラックローズ』が一人、ユーリ。よろしくね!」
ザワッ!と野次馬がざわめく。元々、名乗る必要などないのだ。だがユーリは名乗った。ということは何か意味がある。
それにナオはふーんと言ったように澄ました顔で見ている。一方、少女はポカーン…と驚いている。
「ハハハッ!」
と、男性が笑った。それに男性へ視線が集中する。
「…そ…ソラ?どうしたの?」
少女が恐る恐る聞くと男性は少女を振り返って、笑う。
「お前も俺も、思った通りだった」
男性はユーリを見据え、言う。ユーリはまだかまだかと待っている。
男性は杖をユーリに向け、言った。
「俺はソラリス。よろしく頼むぜ、ユーリ」
「!うん!よろしくね!」
ニッコリと笑うユーリ。
ソラリスと名乗った男性は白銀のセミロング(といっても肩につくかつかないくらい)で額に灰色の額当ての布を巻いている。服は灰色を基調としたローブで首から銀色の鎖で繋がれた太陽のような丸い黄色がついたネックレスをしている。黒のズボンを履き(ローブでほぼ隠れている)、黒の靴だ。
「ユーリ!勝てよ!」
「ソラ!頑張って!」
両者の応援が聞こえる。
そして静かに、勝負の幕は降ろされた。
バッとユーリが走りこみ、ソラリスの懐に入り込む。それをソラリスは後方に跳躍して避けると杖の先に手をかざし、言う。
「召喚契約、闇狼!」
彼の影から狼の形をした黒い物体が出てきた。それに周りの野次馬がざわめく中、ユーリはクスリと笑い、走り出す。
「行け!」
主の指示に従い、影の狼はユーリに向かう。ガキンッとユーリの刀と狼の牙が交差する。ギギギと不気味な不協和音が奏でられる。
「……いいこと思いついた♪」
ユーリが再び笑うと片手の刀をクルンと手首の上で一回転させる。防いでいたものが一瞬なくなったことで狼は口を緩めた。ユーリは2本の刀を交差させ、バツ印を作る。
「!戻れ!」
ソラリスがなにかに気づき、狼を戻そうとする。狼が「え?」と主を振り返った時にはもう遅い。
「王瞳豪刃!」
ユーリがオリジナルスキルを叫ぶ。2本の刀に力が溜まる。そしてそれをユーリはバッと狼に、その先にいるソラリスに向かって放った。黄色とも水色ともとれる衝撃波が鋭い刃となって狼に襲いかかる。狼はそれらから逃れようと走るが逃れられるわけがなかった。狼を真っ二つに斬った衝撃波はソラリスに向かう。
「防御結界!」
ブオンッとソラリスが掲げた杖から音がし、彼を五芒星が描かれた結界が包んだ。ガキンッ!!と衝撃波が結界に当たる。だが衝撃波は消えることなく結界を破壊しようと迫る。
「なっ?!ヒビ?!」
ビギ、ビギビギと小さく亀裂が入り始める。ソラリスは顔を歪ませると杖の先に手をかざす。
「最大防御魔法、大盾「剣舞」!」
ソラリスの呪文詠唱がユーリのスキル発動詠唱によって防がれる。ハッとソラリスは頭上を見上げた。結界の一番上にユーリがおり、刃をこちらに向けていた。ソラリスは結界が破壊されるのを察知した。急いで結界の端に寄るとちょうど衝撃波が横から結界を破壊し、頭上からユーリがスキルで結界を破壊した。
ズサッと地面に“舞”と呼ばれる蝶が舞った刀が突き刺さる。
「………?(あいつは?何処に…?)」
目の前からユーリは一本の刀を地面に残して消えていた。野次馬もソラリスの連れ(仲間かもしれないし友達かもしれない)の少女も何処へ行った?と辺りを見回す。ナオは彼女の行方を知っているのか何処か遠くを眺めている。
『“背後に気をつけな”』
「(?!まさか?!)」
ナオのあのセリフの意味にようやく気付いたソラリスは魔法を唱えようとした。
「残念、ゲームオーバーだよ!」
ピタリと彼の首筋に背後から当てられた冷たい刃の感触。
嘘だろ…とソラリスは思った。
「いつの間に?」
「さっきウチがスキル使ったでしょ?当然、ウチの行く末が気になってそっちに目が行く。それを利用したの」
そのユーリの説明にソラリスは一本取られたなぁと感嘆しながら、言った。
「俺の負けだ」