十一の曲〜夢中の自由間奏曲〜
暗い、暗い夜。自分は月。自分は星。自分は木々。自分は土。自分は風。自分はーーーーーー全て。
目に映った2人の女。闇が深まった暗い森で追いかけっこをして遊んでいる。怖くないのかな?楽しそう…
「キャハハハハ!!」
「返して!!」
狂ったように笑う女はその足を止め、腕の中に抱く“何か”を愛おしそうに見て、撫でた。それにもう一人の女がその女を睨みつける。
「大丈夫よ……私の愛しい子……」
「誰があなたの子よ。その子は私の子供よ!」
「……なぁにを言っているのかしら?【悪人】様が」
それに睨んでいた女がビクッと肩を震わせる。
なんでだろうね。そしてその女は美しい歌声で歌い始めたの。なんていう歌かな?さっきの追いかけっこ中にも歌ってたけど。
「………耳障りね……私の愛しい子によくないわ……フフッ」
「♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜」
狂った女は狂った瞳で歌う女に近づく。歌う女が気づいた時には狂った女がナイフを振りかざしていた。
「?!」
「さようなら…【悪人】様♪私の愛しい子を奪った罪、地獄で味わってね…キャハハハハ!」
ーズサッー
所々に飛び散る紅い紅い血。響き渡る女の笑い声と子供の鳴き声。
終わっちゃったみたい。ふーん、そんなことがあったんだ。どっちが悪いのか、これからも見なくちゃね。
そう、始まりは“あの人”。“あの人”が愛しい女を元に戻すために犯したこと。
君がやったことは、いいことだったのかな?ずっと、廻り続けるのはいいこと?その中だけでは君の愛しい女は救われるけど……。
「キャハハハハ!」
こうも狂った女を愛することってもう、出来ないんでしょ?
さあ、今夜は“どこ”を見ようか?
***
カチカチ、カチカチ、ギシギシ、ギシギシと音を出して廻り出す“それ”。“それ”の上に立っている“ぼくの二の舞”。いや、“あの子”は二の舞になるのではなく、ぼくと違うやり方をすると言っていた。が、さしずめ二の舞だろう。
ぼくは、ある人を救うがために死してもなお魂は地上に縛られたままだった。もう、運命に縛られすぎて、道を見失ったのだ。だから、死んだ後に手に入れた。この力を。
でもその力も譲る時が来た。ぼくはここにいすぎた。狂いすぎた。繰り返しすぎた。何より、老いたのだ。姿形が変わらなくとも心は老いた。だからぼくは“あの子”にこの力も術も“ここ”も受け渡すつもりだ。ぼくが消える前に“ここ”の全てを“あの子”に伝えよう。本当はもう1人、候補者がいる。そろそろ来る頃だから“あの子”とも面会させようか?いや、やめておこう。“彼女達”に任せた方が懸命だ。
ぼくは傍らの人形のように身動き一つしない愛しの人、妻の頬を撫で、前髪をあげてあらわになった額に軽く口付けした。何度も繰り返して取り戻そうとした我が妻は、もう何処にもいない。あるのは意思を失った身体だけ。
…………“あの子”の言う通りだった。
ぼくは妻を抱き締めて、言う。
「さあ………帰ろうか………」
繰り返すことのない、本当のぼく達が帰るべき場所へ…。
誰でしょう…?それに“あの人”が犯したことって…?