前奏曲の章〜プレリュードを奏でながら微かに動くあの歯車〜
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです!
ふっつか者で所々可笑しいかもしれませんが楽しんでもらえたら幸いです。
それでは、お楽しみください。
10年前 夕暮れの海岸にて
「?おねえちゃん、なんかながれてきたよ」
「わぁ、ほんとうだね!なんだろう?」
海から浜辺に流れ着いた小瓶。小瓶の中には一通の手紙。それを幼い2人の子供が興味深そうに見つける。
と男の子が小瓶を拾い、中の古い紙を広げた。女の子がそれを覗き込んで頬を赤く染め、嬉しそうに笑って言った。
「だいじょうぶ。それはきっと、カミサマからのおてがみよ。はやくよまなきゃ、くらくなるまえに」
女の子の笑みに男の子は一瞬、見惚れたように頬を赤く染めるとそれが女の子に気づかれないようにと“カミサマからのおてがみ”に視線を移した。女の子の言う通り、今は夕暮れ。暗くなる前に読まなくては。
2人で“カミサマからのおてがみ“を読んで行くとそれは何かの歌詞のようだった。男の子がそうか!と言わんばかりの勢いで女の子を見て、言った。
「これはきっとカミサマがぼくたちにくれたおうただ!はやくうたおうよ!きえてしまうまえに」
「そうね、そうしましょう!カミサマにこのおうたをくれたおれいをしないと!」
2人は顔を近づけて楽しそうに笑うと女の子が先に歌い出した。綺麗な、透き通る美しい声が浜辺に響く。男の子はそれに聞き入っていたが自身も歌い出す。2つの歌声が浜辺に響く。
一通り歌い終えると“カミサマからのおてがみ“は男の子の言った通り、消えてしまった。2人は驚いたように再び顔を見合わせると「「アハハハッ!!」」と楽しそうに声をあげて笑った。そして2人は手を繋いで沈んでいく夕日を見つめる。
「わたしね、よるはキライなの」
「えーなんでー?ぼくはよる、スキだよ?」
「わたしはよるよりひるがスキ!とってもあかるいきもちになれるから!」
「ぼくはイヤなことをかくしてくれるからよるがスキ!」
女の子は昼、男の子は夜が好きという好きなモノを相手に認めてもらおうと一生懸命に話す。が、決着がつかなくなり、2人は顔を使ってにらめっこを始めた。
「ム…」
「ムムム……」
「………ぷ、アハハハ!おねえちゃんヘンなかおー!!」
「エヘヘーおねえちゃんはつよいのだ!」
えっへんと胸を張る女の子と笑う男の子。2人は手を繋いで歩き出す。そろそろ、暗くなって来た。早く帰らないとお母さんとお父さんに叱られる。
2人はさっきもらった“カミサマからのおてがみ“の歌を楽しそうに歌いながら。
夕日によって伸びる2人の影。影は自らの主人の動きと同じようにゆらゆらと楽しそうに揺れていた。
***
そしてその10年後、現在
「…ハァ…ハァ…クッソ…何考えてんですかあの方は…!!」
背中に純白の翼を持つ一人の天使が急いである場所に向かっていた。翼で飛んで行けることを忘れてしまうほど、天使…彼は慌てているようだ。
目的地が見えて来た。天使はバンッ!と両開きの白い扉を開け放った。そこにいる大勢の天使達は彼に視線を向けず、中央のある人物に視線を向けている。その人物はまだ幼さを持つ少年であった。少年はつい先ほどまで見ていた水面から顔を外し、白いローブを揺らしながら彼を見た。
「遅かったね。君が一番乗りだと思っていたけれど」
ニッコリと笑う少年。しかし、目は笑っていないし、表情はぎこちない。彼は疲れた顔をしながら少年に歩み寄る。
「何をしておられるのです?」
「君なら分かっているだろう?僕がやろうとしていることが」
そう言って少年は再び水面に視線を戻す。ざわっと少年の言葉を聞き、一斉に彼に視線が集まる。彼はそれを無視して、あくまでも冷静に少年に言う。
「そんなことをして宜しいのですか?」
「嗚呼、もうこれしか、『彼』を止める方法はない」
少年が見ている水面では魔物の群れが村を襲っていた。炎と煙、悲鳴に包まれる村。魔物の中に魔物に指示を出す青年がいた。頭に2本のツノを生やし、顔の右半分は赤い火傷の痕で覆われている。青年はこちらに気づいたのか口を動かし、ある言葉を口にする。
それを読み取り、少年は彼に言う。
「『彼』は僕と世界への憎しみで溢れている。僕達には無理だよ。だから」
少年が手を水面にかざすと波が立ち、さっきのおぞましい風景を消し去る。そして現れたのは嬉しそうに笑う2人の少女だ。手には賞状を握っており、とても嬉しそうだ。
少年は自分の近くまで来た彼に笑いかける。やはり、少年の表情はぎこちない。
「人間の問題は人間に解決してもらおうよ。ね?」
彼は仕方ないと言った表情で少年に跪き、こうべを垂れて言った。
「我が神のお望みのままに」
それに少年、カミサマは何も答えずに水面に視線を移した。