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「いいか。降りたら、駅前北口公園だ。今度こそ、その性根を叩き直す」
「それはこっちのセリフ。いきなり殴られたこと、僕は怒ってるからね」
物騒な確認をしあいながら、電車を降りる坊ちゃん先輩と王子先輩。
委員長と私も、それに続く。
どうしよう。これ、あらかじめ仲裁してもらえるようおまわりさんに頼んでおいた方がいいのかしら。
幸い、北口公園なら交番まで歩いて十分もかからないはずだけど。などと、頭を痛めながら改札をくぐる。
と。
「カズ!」
王子先輩の家族が。礼子さんも、ナルさんも、欣治さんもそこにいて。
泣きそうな顔の礼子さんが、王子先輩に抱きついた。
「お母さん?」
「良かった。このままいなくなっちゃったらどうしようかと思った!」
抱きつかれた王子先輩は。とってもビックリした顔をして。
「え?」
困ったように、不器用に、それでも優しく礼子さんを抱き返して。
「どうして、そんなこと」
「だって。アンタ、今日何だか様子がおかしかったし」
「え? 別に、フツウだったと思うけど」
「そんなことないわよ!」
礼子さんは。怒った顔で王子先輩を見上げる。
「ウウン、今日だけじゃない。何だか最近のアンタは……妙にはしゃいだり、かと思うと、沈みこんでたり。本当の気持ちをぶつけてくれてないみたいでずっと気になってた。今日だって妙に優しくて」
そう言って、うつむく。
王子先輩は。
「僕が優しいと何かオカシイの? ふうん。そうなんだ?」
と、何か言いたいことが思いっきりありそうな顔で、呟いていた。
「それだけじゃない」
言い募る礼子さん。
「ダンスの相手を成俊に代わった時だって。まるで結婚式の時のお父ちゃんみたいな淋しい目をしてさ!」
「何で僕がおじいちゃんの立ち位置なんだよ?」
地味にツッコんでいる王子先輩だが、礼子さんは聞く耳を持たない。
「それで、ダンスが終わってみれば、どこにも姿がなくて。あたしたちもう、アンタがこのまま姿を晦ますつもりなんじゃないかと思って、気が気じゃなくて」
王子先輩を固く抱きしめる礼子さん。
うーん。この光景は、王子先輩的に勝ちなのか。どうだろうか。
ナルさんがため息をつきながら進み出て、王子先輩の肩に手を置く。
「そこら中探し回っちまったよ。いい年して、あんまり親に心配かけんじゃねえ」
「お父さん」
「まったく、仕方ねえな。どこをほっつき歩いてたんだ」
「おじいちゃん」
みんなの顔を見まわす王子先輩。
「みんな、わざわざ僕を迎えに?」
うなずくご家族。
王子先輩の白い顔に、少しずつ血の気が昇って来て。いつの間にか、王子先輩の顔は真っ赤になっていた。
「あー、失礼」
委員長が咳払いした。
「親子愛、大変美しいとは思いますが。何分、ここは改札前で大変人目につくところでもありますし。母と子のスキンシップは一定の節度を持ってやってください。他の人をビックリさせない程度に」
我に返ったように、礼子さんが王子先輩から離れる。礼子さんも真っ赤だ。ウン、この人、うんと年上だけどなんかカワイイな、確かに。
王子先輩は不機嫌そうに委員長をにらんだ。
「ウルサイな。樫村は関係ないでしょう」
「俺だって、好きでお前に絡んでるわけじゃない。公共の迷惑になるから、仕方なく注意を喚起してやっているんだ」
同じくらいの仏頂面で言い返す委員長。
「と、とにかくここは移動しよう。な?」
声をかける坊ちゃん先輩。私たち一行は、ゾロゾロと駅舎を出て大学へ向かう道へ歩き出した。
「じゃ。俺は、アパートこっちだから」
駅を出るとすぐに委員長は手を上げて、右手へ折れて行った。なんていうか、クールというか。アッサリしてるなあ。
「あ、久住さん」
坊ちゃん先輩が、気付いたように私を見た。
「家、こっちじゃないよな?」




