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それから、王子先輩は坊ちゃん先輩にメールして、礼子さんに電話して。
先輩の声を聞いた礼子さんは、何か電話口でいろいろ言っていたみたいだけど。
「とにかく、帰るから。大丈夫だから」
なんて。王子先輩は慌てたように言って。さっさと電話を切り。
直後に鳴りだした携帯の電源を、容赦なく落とした。
電話、絶対に礼子さんか坊ちゃん先輩のどっちかだと思うんだけど。どっちも、電源落としたら怒ると思うんだけど。ヒドイな、王子先輩のモバイルの使いこなし方。とんでもない一方通行っぷり。
しかし、私が意見しても王子先輩が聞くはずもなく。そのままの状態で、私たちはもう一度電車に乗った。
夜の電車は、東京からの通勤帰りの人たちで結構混んでいる。
私たちはドアのところに立って、お互い黙ったまま流れていく夜景を見ていた。
こんな時、王子先輩とする話なんて私にはないし。王子先輩にも、きっとないんだろう。
大学のある駅まで六つ。
その真ん中あたりの駅で。停まった電車に、坊ちゃん先輩が乗り込んできた。
「あれ、高原?」
王子先輩が言い終わらないうちに。
「この、バカたれがあっ!」
坊ちゃん先輩のアッパーが炸裂! 混んだ車内のわずかな空間に、王子先輩は倒れ込んだ。
ザワつく車内。
「な、何するんだ、いきなり!」
怒る王子先輩。
「それはこっちのセリフだ、このドアホウ!」
もっと怒っている坊ちゃん先輩。王子先輩の胸ぐらをつかんで引き起こす。
「どれだけ心配をかけたら気が済むんだ、この史上最悪のクソヘタレがあ」
「何でそんなこと言われなきゃならないんだよ!? 子供じゃないんだ、ちょっと遊んできたくらいでそんな言われよう、おかしいだろ」
「お前なああ?! そういうセリフは胸に手を当ててじっくり反省してから言いやがれ?!」
混んだ車内に飛び交う怒号。
「警察?」
と囁く人あり、スマホで撮影する人あり。
そこへ。
「落ち着け。迷惑だ」
後から乗って来た委員長が、二人を引き分けた。
「しかし、樫村」
「口を出すなよ。樫村は関係ないでしょ」
同時に言う二人。仲良しだな、結局。
「ああ、関係ない。関係ないが、俺よりもっと関係ない人たちが、お前たち二人のせいで迷惑を蒙っている」
と、二人に現状を認識させる委員長。
「ケンカは電車を降りてからにしろ。もう大人なんだから、他人の迷惑ということを少しは考えるんだな」
で、むすっとした顔で、背中を向けあったまま、隣り合って車内に立つ王子先輩と坊ちゃん先輩。
もう、完全に注目の的なんだけど。
スマホでしつこく撮ってる人は、ものすごい怒り顔の王子先輩が目の前まで行って鬼のような目付きでにらんだら、慌ててやめた。その後も、データ消すまで王子先輩はにらんでたけど。そして、それを見て何人かの人が、自分の携帯のデータ消してた。
「まったく。こんなことになるんじゃないかと思ってついて来てみれば、案の定だ」
委員長がグチる。
「いつまでも子供じゃないんだ。こういうことは、これ限りにしてもらいたいな」
大変、悔しそうな顔になる王子先輩と坊ちゃん先輩。
「何で、樫村にそんなこと言われなきゃなんないんだよ」
「ああ!? 全部お前のせいだろが、このバカたれ」
にらみ合う二人。また手が出るかと思ったけど、さすがに自重したのか、お互いにぷいっと顔を背ける。小学生のケンカか。
「だいたい、なんで高原がこの車両に乗ってくるんだよ?」
眉根を寄せる王子先輩。
「ピンポイントすぎるだろ」
「あ、私がメールで教えました」
手を上げる私。疑問点は解消しておいてあげよう、ウン。
「ぼ……高原先輩に聞かれたので」
「お前か、クズひま」
うわ。ものすごい顔の王子先輩が目の前に。
「お前はホントに! 余計なことばっかりしやがって!」
ほっぺたつねられた! 痛い!




