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「関係ありますよ」
私は言った。
「私と王子先輩は、無関係かもしれないけど。坊ちゃん先輩と私は、お友だちなんですから。そして、もしここに坊ちゃん先輩がいたら、王子先輩のそんな泣き言は、絶対叱り飛ばすんですから」
「泣き……ちょっと待て」
不本意そうな顔になる王子先輩。
「泣き言なんか言ってない! そんな情けないこと言ってないぞ」
「言ってます。客観的に見て、言ってます」
ウッ、とうなって黙り込む王子先輩。
「ですから。これは私の言葉じゃなくて、坊ちゃん先輩の言葉です。そう思って聞いて下さいね?」
私はゆっくりと言った。
「こんなところでヘタレてないで、早く坊ちゃん先輩と礼子さんに連絡を入れて、家に帰ってください。みんな、王子先輩のことを待ってるんですから」
「それは……さっき、僕が言ったのと、同じ理屈」
私はうなずいた。
「もし、心と心が星より遠く離れていたとしても。それでも今、私の手は王子先輩に届きますよね?」
私は手を伸ばして、先輩のTシャツをギュッとつかむ。
「たとえ分かりあえなくても、声が届くなら。分かりあおうとすることは出来るじゃないですか。その努力もしないで、諦めたようなことを言わないでください」
「それも。高原の言葉だと思って聞け、って言うの?」
王子先輩は眉をひそめて訊ねる。
「はい」
私は。それに、力強くそう答える。
坊ちゃん先輩なら、絶対そう言うから。
戻って来い、って王子先輩に言うから。
だから、自信を持ってそう言える。
「ふうん。そう」
王子先輩は、ため息をついてやわらかそうな茶色の前髪をかき上げた。
「で? お前自身はどうなんだよ?」
「はい?」
私? 私は……えーっと。
「それはもちろん……。王子先輩のこと、待ってますよ……」
ヤバい。顔を見て最後まで言えん。つい、目をそらしてしまった。声もなんか、最後の方、小さくなったような。
だって、ねえ。今まで王子先輩にされたこと考えると。
「お前な」
うわあ、王子先輩のキレイにそろった眉がギュッと上がる。
「そういうことは、ちゃんと僕の目を見て最後までハッキリ言えよな?!」
あー、バレバレだ……。
「いいよ。もう分かった。分かったから、離せ」
王子先輩は、Tシャツをつかんでいる私の手をピシャリと叩いた。痛い。思わず離してしまう。
その私の横から、スッと動いて。
少し距離を取ったところで、王子先輩は私を振り返った。
「高原にメールする。お母さんにも、電話を入れる。それで、お前と一緒に家に帰る。それで、いいんだろ」
そう言って、手に持ったままだったナイフを鞘に押し込んだ。
その声は、もう。いつもの王子先輩みたいで。
「ホ、ホントですか?!」
私の声が、思わず弾む。
「ああ。ホントホント」
王子先輩は、深いため息をついた。
「ホント。メンドクサイんだよ、お前」
って。嘘でしょお? このメンドくさい人に、メンドくさいって言われたよ、私!
有り得ない! 有り得ないこと言われた、今!!
「けど! 別に、お前に言い負かされたわけじゃないからな!」
とムキになって言う王子先輩は、ヘンなとこ負けず嫌いだと思う。
そして。
「お前の言うことを聞くのは、ただ……高原のためだから!」
なんて言って、少し赤くなる王子先輩は。
とってもメンドくさくて、とっても照れ屋で。
ヘンなとこ正直者だと思う。
だから私は。
笑って、「はい」と言った。




