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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
星より遠い
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「僕のことなんか何も知らないくせに。何でそんな口がたたける。お前、何様だよ」

 その目は。首に当たったナイフと同じくらい冷たくて。人の温度がしない。

「僕と僕の家族のことなんて、ろくに知らないくせに。そんなお前が、何でそんなことを言える」


 そうだけど。でも。

 それでも。

「言えますよ」

 それだけは譲れないから、私は言った。

「私、王子先輩のご家族とは数えるほどしか会ってませんけど。それでも、言えます」


 だって。

「王子先輩のうちは、いつだって、みんな笑顔で。とっても、あったかくて。あの空気に触れていると私、いつも実家が恋しくなりました」


 だから。

「ご家族と、王子先輩の気持ちは、絶対に本物で」

 だから。

「それだけは絶対に、私、譲りませんから」

 だから。

「だから、自分の居場所を自分でなくすようなこと、言わないでください」


 王子先輩は険しい表情のまま、私をにらみ続けて。

「バカじゃない。何、言ってるの、お前。理屈にも何にもなってないし」

 と、言った。


「だいたい、よくそんな口がきけるな。今、どういう状況か分かってる? 僕がちょっと手を動かせば、お前、死ぬんだぞ」

 黒い刃をピタリと私の首筋に当てたまま、そう言った。

「それとも、これが何だか分かってないとか? お気楽ボケキャラも、大概にしろよ?」


 私は。目玉だけを動かして、王子先輩が私につきつけているナイフをもう一度見る。

 先輩は、銃刀法違反じゃないって言ったけど。それは、大きくて、重そうで、誰かを傷付けるには十分なものに、見えた。

「分かってますよ。ナイフでしょう?」

 私は。乾く唇をなめながら言う。


「へえ。分かってるじゃない。じゃあ、何でそんなに落ち着いてるの? 僕が絶対にお前を殺さないなんて、まさか信じてるわけじゃないよね?」

「そんな、まさか」


 いや、殺されると思ってるかと言えば、それは微妙だけど。

 殺されない、と信じてるのかと言えば、王子先輩ならやりかねないと言うか。

 信じられる根拠が何もないと言うか。

 ぶっちゃけ、私は王子先輩を信じてないと言うか。


「へーえ」

 なぜだか、王子先輩の顔が更に不機嫌になった。

「いい態度だ。ビビってるならビビってるらしく、おとなしくしていればいいんだよ。わけのわからないキレイごとなんか並べないでさ」


 軽く肩をすくめて、冷たく言う。

「関係ないことに首を突っ込むな。おとなしくしてろ。そして、もう二度と、僕には関わるな」


 関係ない。確かに。

 私は、王子先輩の事情に、関係ないかもしれないけど。

「私のことはいいです。でも、坊ちゃん先輩のことはどうなんですか」


 顔を上げる。と。王子先輩の、お人形のように整ったキレイな顔が、目の前にある。

「坊ちゃん先輩は、本気で王子先輩を心配してるんです。王子先輩、いったい何をしてるんですか。今夜の王子先輩は、やっぱり何かから逃げようとしてるみたいに見えますよ」


「黙れって言っただろう!」

 王子先輩の声が。跳ね上がる。

 首に押しつけられた冷たい刃に、力がこもる。

「口出しするなって言ってるだろう。怖くないのか?」

「コワイですよ!」

 こんなもの首に当てられて、笑ってる人間がいたらヘンな人だ。


「でも、これだけは伝えなきゃいけないから、言うんです。坊ちゃん先輩は、ホントにホントに王子先輩のことを心配してたんです」

 それを分かってもらえるまでは。私は、絶対に黙れない。


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