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先輩はしばらく、黙って私の顔をじっと見ていた。
それから、無言で。
バシッ! と、私の顔を張り飛ばし返した!
痛い! 暴力事件! おまわりさん!!
「何をするんですか! イキナリぶつなんて、ヒドイですう!」
「その言葉、そのまんまお前に返すよ」
王子先輩は不機嫌MAXな口調で言った。
「そっちが先にぶってきたんだろ」
「女はいいんですよ。女は弱いんですから! これは女性の権利です」
「知るか! 何だよ、その一方的な権利」
王子先輩は叩かれた頬をさする。
「フツウに痛かったぞ」
「だからって、本気で殴ることないじゃないですか! 手加減してくださいよ」
「何でこっちが被害者なのに遠慮しなきゃいけないんだよ!」
にらみ合う私たち。
「それにさ。何でお前なんかにそんなに偉そうに言われなきゃなんないんだよ」
王子先輩は怒った口調で言った。
「お前は関係ないだろ? 余計な口を出すな」
関係ない。
確かに、私は王子先輩の家族じゃないし。友達ですら、多分ない。
でも。
「関係……ありますよ!」
やけみたいになって、私は怒鳴った。
「だって、王子先輩は! 私のために、人を傷つけてまで」
「キモチ悪い言い方するな! どんなヒロイン気取りだ、お前は」
一刀両断された。
「まったく、何を言い出すかと思えば」
ものすごくバカにした目で私を見る。
「何度も言ってるだろ。僕はお前なんかどうでもいいんだってば」
王子先輩は、何だか悔しげに言った。
「そもそも、僕はお前なんかキライなんだよ」
がーん。
前にも言われたけど! でも、こんな時に改めてハッキリ言わなくても!
「けど」
それじゃ、でも。
「何のために、あんなこと」
王子先輩には関係ないんなら。
そのまま、見ていれば良かったのに。
あんなことして、王子先輩が逆恨み……イヤ違う、逆の字いらないや。恨まれることになるかもしれない、というか恨まれて当然な状況にわざわざなることなんかなかったのに。
王子先輩は、む、と唸って口を閉ざしてしまう。
そのキレイなまなざしで恨みがましくにらまれること、約二分半。
先輩は、根負けしたように言った。
「だって、仕方がないじゃないか。お前のことを大事に想ってるやつがいるんだもの」
王子先輩の眼から、鋭さや恨みがましさが消える。
「もし、アイツがあそこにいたら。自分の身のことなんか考えず、お前を助けた。そんなこと、僕は知ってる」
それは、とっても大切なもののことを想うまなざしで。
「だから、仕方ないじゃないか。アイツの大事なものには指一本触れさせられないじゃないか。だからさ」
困ったように、すねたように。王子先輩は私を見る。
「お前を助けたのは僕じゃない。高原なんだ」
そうか。
私の中で、何かがカチリと音を立ててつながる。
いつも学内を、楽しそうに歩いていた二人の先輩。
そのキレイな顔が、隣り合う人に向ける優しい表情を見るのが、ずっと好きだった。(実際に知り合うまでは)
だから、きっと。
王子先輩が怒るのも、笑うのも。自分を危険に晒すのも。
それは全部、坊ちゃん先輩のため。大切なお友だちのため、なんだ。




