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「樫村」
驚いたように委員長の顔を見る坊ちゃん先輩。
委員長は仕方なさそうに肩をすくめて見せた。
「とにかく、深呼吸をして少し落ち着け。山城先生のところにはいないのか?」
「山城先生?」
坊ちゃん先輩はぼんやりと呟いた。
それから、すごい勢いで携帯を出して、メールを打ち始める。
「忘れてた。連絡してみる」
「そんなことも忘れていたのか。どこまで度を失ってるんだ」
委員長は呆れたように言った。
「坪田に危害を加えられるようなヤツなんてそうそういないだろう。何を心配しているんだ?」
「そういうんじゃないんだ」
坊ちゃん先輩は、深刻な顔で言った。
「俺たちが心配しているのは、アイツがこのまま自分の意志でこの場所から消えてしまうんじゃないか、ということだ」
声が。少し、震えている。
「どんなに笑っていても、幸せそうにしていても、何気なさそうに日常を過ごしていても。アイツはどこかで、ここは自分の居場所じゃないって思ってる。だから」
少し言葉を切って、また続ける。
「今日みたいな、みんなが幸せで楽しい気分の日に、アイツが消えてしまう。そんなことがあまりにもありそうで、怖いんだ」
「あの。それは、どういう」
問いかけた私に。
「久住さん。深入りしない方がいいと言っただろう」
委員長が首を横に振った。
「もう一回言う。坪田は危ないヤツだから、君は関わりにならない方がいい」
坊ちゃん先輩は。うつむいたまま、何も言わない。
「アイツは俺たちで探すから、君は打ち上げに行きなさい。大丈夫、どうせどこかで女と飲んでるとか、そんなオチだから」
そう言って、委員長はもう一度私に行け、というポーズをした。
「久住さん。すまん」
坊ちゃん先輩が、ポツリとそう言った。
それ以上、私に何か言えることもなく。
私はみんなに、委員長は都合で打ち上げに来られない、と伝え。
実行委員の仲間と共に大学の門を出た。
ちょうどその時、構内に委員長の声で放送が流れた。
「建築学科四年の坪田くん。建築学科四年の坪田くん。高原くんが探しています。構内にいたら、至急建築学科研究室まで来てください」
王子先輩は迷子か。
でも、確かに委員長は王子先輩のことをよく知ってる。
いつもの王子先輩なら、こんな放送を聞いたら飛んでくるに決まってるんだから。
だからきっと。
きっと、今日だって。
心臓が締めつけられるような気がして。
慌てて胸を押さえた。




