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ナルさんと合流した私たちは、王子先輩と別れた辺りまで戻ってきた。
「あれ?」
「アイツ、どこへ行った?」
姿がない。
「変ね。私らと一緒に帰るつもりだと思ってたのに」
キョロキョロする礼子さん。って、王子先輩、後夜祭は?
「アイツがそんなモノに出るわけあるか」
聞いてみると、坊ちゃん先輩が苦虫をかみつぶしたような顔でそう答えてくれた。
「最低限の義務をこなしたらサッサと消える。明日の片付けにも当然来ない! それがアイツという男だ。だが」
坊ちゃん先輩も周りを見渡した。
「オカシイな。今日は、礼子さんをエスコートして帰ると言っていたのに」
「念のため電話してみるか」
ナルさんが携帯を取り出して、ボタンをプッシュする。ちなみにガラケーだ。
何となくみんなで、その様子を見守ってしまう。
が、しばらくしてナルさんは、ため息をついて電話を顔から離した。
「ダメだ。あのバカ、また電源切ってやがる」
またか、とため息をつく三人。
私がわけがわからないでいると、坊ちゃん先輩が教えてくれた。
「アイツは基本、携帯がキライだから。自分に用がない時は、大体電源を落としてる。アイツを電話やメールでつかまえることは、よっぽどタイミングが良くないと不可能だ」
って。そうなのかー! かける専用、ってヤツ? うちのおじいちゃんみたいだな。
あの人はホントに若者なのか?
「まあ、いい。アイツも子供じゃない。そのうち、どこかから出てくるだろう」
と肩をすくめる坊ちゃん先輩。なんだか、なくした十円玉みたいだな。
まあ、でも。
「そうですね。王子先輩のことですから、その辺でナンパしてるかナンパされてるかだけのことかもしれないですし」
私もうなずく。
王子先輩のことになると、つい扱いが雑になってしまうのは、王子先輩の人徳と言えましょう。
「そうだな。約束を忘れて、先に帰っているのかもしれないし」
ナルさんもうなずいた。あーやっぱり、みんなこういう解釈。
礼子さんだけが、まだ心配顔だった。
「今日……。何かヘンだったのよね、あの子。何だか妙に優しくて。淋しそうで」
「大丈夫だ、礼子ちゃん」
ナルさんが、奥さんの肩を抱いた。
「アイツはいつもヘンだ」
あー。やっぱそういう感想。
「とにかく、俺たちは帰るわ。もし家に帰ってたら、コースケに連絡入れるよ。悪ィな、いつも心配かけて」
「ああ、俺の方でも見かけたら連絡する。久住さんも」
坊ちゃん先輩が私を振り返った。
「もし、アイツを見たら俺たちに連絡をくれないか」
「分かりました」
私はうなずく。
じゃあ、と手を振って、ナルさんと礼子さんは帰っていった。
「さて」
坊ちゃん先輩は二人を見送ってから、私に向き直る。
「久住さん。後夜祭なんだが」
「はい。分かってます」
私はもう一度、うなずいた。
「張り切って、裏方頑張りますよー! 今日は午前中、サボっちゃったから、実行委員としてしっかり仕事しないと!」
「え? いや……」
坊ちゃん先輩が何か言おうとした時。
「あ、先輩!」
「高原先輩!」
色鮮やかなドレスに身を包んだ、社交ダンス部女子部員の皆さまがこちらに向かってやってきた。
「先輩、後夜祭では私と踊ってください!」
「ズルい、私とも!」
「私とも踊ってください!!」
そして、あっという間に連れて行かれてしまった。向こうは向こうで、大変そうだなあ。
まあ、私はお仕事頑張らないと。
委員長も休みなしで働いてるんだろうし、後夜祭くらい楽しませてあげないとな。よし、やるぞー!




