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「い、いや、いいんだ」
ひきつりながらも笑顔を作ってくれる坊ちゃん先輩。
「久住さんは素人なんだし、気楽にいこう」
うう。その気遣いが逆に胸に痛い。
いっそ、王子先輩みたいに、
「何をするんだ、このどヘタクソ!」
と怒鳴りつけてくれた方がマシな気がする。
「じゃ、次のターンから曲に戻るぞ」
そう言って私の手を握り直してくれる。
でも、何だかこれじゃ、ダンス教室の先生と生徒みたいだよ。全然ロマンチックじゃない。
ゴメン、王子先輩。あんなにいっぱい、高いモノ買ってくれたのに。
やっぱり、私には魔法なんかかからなかった。
こんなところに来ちゃ、いけなかった。
思い上がって、一瞬カン違いをしただけ。
それをこんなところで、思い知らされて。
みんなの注目の中で。恥ずかしくて、もう一歩も足が動かない。
「久住さん? ホラ、踊ろう」
手を引っ張ってくれる坊ちゃん先輩。
ゴメンナサイ。坊ちゃん先輩にまで恥をかかせて。でも、私。もう。
「はい。タッチ、交代」
後ろで、大きな声がした。
同時に私は、大きな手に腰を抱かれて、クルリと半回転する。
ナルさんの日に焼けた顔がそこにあって、ニコニコと私を見下ろしていた。
「ちょっと! その人は俺のパートナーだぞ!」
あわてる坊ちゃん先輩の声。
「ダーメ。時間切れ。女の子を楽しませてあげられない男は、かわいい子と踊る資格なんかないんだ。肝に銘じとけ、コースケ」
そう言って、ナルさんは私を抱いたまま、クルリとターンする。
「あきらめな。オバサンで悪いけど、私が付き合ってあげるよ」
礼子さんが坊ちゃん先輩の手を取るのが見える。
坊ちゃん先輩は呆然とこっちを見ていた。いや、私もわけが分からないし。
そんな私に、ナルさんは洋画の黒人さんみたいにニカッと笑ってみせた。
「そういうことで。楽しんでいこうぜ、ヒマワリちゃん。なーに、軽い気持ちでいいんだよ。こんなの、祭りの盆踊りと一緒だ」
抱き寄せられると、白いワイシャツ越しでも海の匂いがした。
ヨソのおじさんとこんなに距離が近くていいのかな、って思う半面、しっかり支えてもらえて、何だかすごく安心した。
「そう、体の力を抜いてな。俺がリードするから、それに合わせて動けばそれでいい」
ナルさんは優しく声をかけ続けてくれる。
「ステップとか、難しいこと考えるな。音楽に合わせて、好きなように動きゃ、それでいいのよ。元々そういうもんだろ?」
そう言うナルさんのダンスは、本当に曲に合わせてただ漂っているようで。
それなのに、他のペアの邪魔になったりもせず、私たちはスイスイと進んでいる。不思議。
「どうだ? 音楽、聴こえるようになったか?」
あ。そう言えば。
私はうなずいた。
「は……はい。聴こえます」
「だったら、ちゃんと聴いてやりな。いい曲なんだから、聴かなきゃもったいないだろ」
ウインク。うわー。何というか、王子先輩・父だなあ。こんなのが様になるオッサンが、一般社会に棲息していようとは。
オジサン、侮りがたし!




