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「とにかく。ずっと二人っきりでいたのに、女の子をダンスにも誘わないなんて信じられないな」
不機嫌に言う王子先輩。
「はああ?」
坊ちゃん先輩は、完全に赤くなった。
「誤解を招くようなことを言うな。俺たちはただ、お前たちのダンスを見ていただけだ。このとおり、周りに人もいるし、二人っきりになったのは」
チラッと私を見て、更に赤くなる。
「控室で、ちょっとだけだ」
「そうなの?!」
驚愕した表情になる王子先輩。
「有り得ない! 余計バカじゃん」
「何を驚いてんのか知らんが、なんか気に障るな、その態度」
怒る坊ちゃん先輩を無視して、王子先輩は。
はあああああ、と大きなため息をついた。
「僕がここまでお膳立てしてやってるのに、このダメっぷり」
「だから何なんだ! その意味不明な上から目線、ムカつくぞ」
そう言われた王子先輩は、キッと坊ちゃん先輩をにらみ返し。
「ウルサイ」
と呟いて、立ち上がった。
「もういいから、ゴチャゴチャ言ってないでさっさと踊りに行って来い!」
坊ちゃん先輩の背中を、長い脚で蹴飛ばす。
蹴られた坊ちゃん先輩は、たたらを踏んで私のすぐ傍にまで来た。
「痛い! 何すんだ、このバカ野郎!」
坊ちゃん先輩の抗議にも、王子先輩は知らんぷりである。
背中をさすりながら、坊ちゃん先輩はこちらを向いた。
そうしたら、びっくりするほど近いところに、坊ちゃん先輩の愛嬌のある顔があった。
私たちは焦った。とっさに、私は下を向き。坊ちゃん先輩は王子先輩の方を振り返る。
「何?」
面倒くさそうに言う王子先輩。
「僕は、ちゃんと好きな人とダンスして来たよ?」
は? 話のつながりが見えない。
坊ちゃん先輩もそう思ったらしく、
「好きな人? お前に?」
と聞き返す。
王子先輩は、マジメな顔でウン、とうなずいた。
「誰だよ、いったい?」
ツッコむ坊ちゃん先輩。私も気になる。
王子先輩はマジメな顔のままで言った。
「お母さん」
あー。聞いて損した。
そんな私たちを、王子先輩は急かす。
「ホラ。さっさとしないと、ダンス終わっちゃうよ?」
坊ちゃん先輩が、私の方を向いた。
やっぱり、顔が近い。なんか、ドキドキする。
「えーと、く、久住さん」
少し裏返り気味な声で、坊ちゃん先輩は言った。
「お、俺とっ! 一曲踊っていただけないか!」
はい?
「いえ、いいです。同情で誘っていただかなくても。私、元々ダンスとか興味ないですし、別に踊らなくても大丈夫です」
チラリと王子先輩を見る。
「どうせ、私のダンスなんて最悪ですし」
坊ちゃん先輩は、いっそう焦った表情になった。
「いや、さっきのは! あのバカについ、つられただけで」
「僕のせいにするなーー」
床にペッタリ座り込んだ人が、なんか野次をはさんでくる。
「うるせーー、黙れ外野! 百パーセントお前のせいなんだよ!!」
怒鳴りつけてから、坊ちゃん先輩はもう一度私の顔を見た。




