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「じゃ、高原。コイツと踊ってやってよ」
王子先輩はそう言って、私を坊ちゃん先輩の方に押し出した。痛い、強い、そんなに突き飛ばすように押さなくても!
「はあ?」
坊ちゃん先輩は少し赤くなった。
「な、何で俺が? お前が踊ってあげればいいだろう」
「言ったでしょ。僕はお母さんとしか踊らないんだよ」
そう言って王子先輩は、講堂の床にずるずるとお尻をつけて座り込んだ。
「それに、コイツと公衆の面前で踊るなんて絶対ヤダ。コイツ、ダンスのセンスも最悪」
「スミマセン」
ムスッとして言う私。ダンス特訓してなんて、誰も頼んでないけどね!
「イヤ、久住さん。それ多分、あやまる筋合いないぞ」
フォローしてくれる坊ちゃん先輩。いい人だ。
王子先輩は、その坊ちゃん先輩に優しく微笑みかけた。
「大丈夫だよ。お前と踊ってみっともなくないくらいには、僕が仕上げておいたから。恥はかかせない」
「だってお前」
坊ちゃん先輩は怪訝そうに言う。
「さっき、久住さんのダンスは最悪だって」
ショック! 坊ちゃん先輩に最悪って言われた!! イヤ、王子先輩の悪口をオウム返しに言っただけなんだけど。
しかし、その言葉がこんなにも胸にこたえるのはナゼ?
答え。坊ちゃん先輩が私の癒しキャラだから。
癒しキャラにまでそう言われちゃったら、もう私の安心できる空間がないよー!
「ああ。僕とは合わない」
王子先輩はニッコリしたまま言った。
「でも、お前のレベルだったらちょうどいいんじゃない?」
笑顔で言い切る王子先輩。坊ちゃん先輩が相手でも容赦ないのね。
「てめえなあ。よくそこまで人を見下せるな、オイ」
その胸ぐらをつかもうとする坊ちゃん先輩に、王子先輩はどうでも良さそうに言った。
「で、いいの?」
「ああ? 何が?」
「そこで、クズひまが落ち込んでるけど?」
打ちひしがれている私を指さす王子先輩。もういいから。せめて放っておいて。
「おおお?! 何か落ち込んでる?」
驚く坊ちゃん先輩。
王子先輩はそれを見て、薄笑いを浮かべながら責めるように言う。
「あーあ。高原が、アイツのダンス最悪なんて言うから。見てもいないくせに」
「てめえが言ったんだよなあああ? てめえが!」
焦って王子先輩を怒鳴りつける坊ちゃん先輩。
王子先輩は、アハハ、と明るく笑った。
「僕はもうさんざん、ド下手くそとか、才能ナイとか、もう死ねよとか言ったから」
うん。百パーセント、笑って言う言葉じゃないよね?
「今さらそれくらいじゃ、クズひまは傷付かないよ」
とどめのニッコリ笑顔。イヤ、傷付くから。すごく傷付くから。
「その内容がひどいだろう! 何、笑顔で言ってんだ!!」
もっともなツッコミを私の為にしてくれる坊ちゃん先輩。ありがとうございます。私のダンスは最悪ですけどね。
王子先輩は肩をすくめた。
「あのさ。前にも言ったんだけど、僕が何を言ってもクズひまは気にしないから。僕が優しくほめてあげたりしたらビックリするかもしれないけどさ」
絶対やらないけどね! とか付け加える。そんな注釈要らない。
「イヤ。だから、お前と久住さんのその関係性が理解できん」
私にもできません。
「僕のことはどうでもいいんだよ。気が付けって言ってるの。アンタが悪口言うと、クズひまは傷付くんだよ」
王子先輩が言うと、坊ちゃん先輩は。ものすごく予想外のことを言われたヒトの顔になった。
「俺が言うと? 何で?」
それを聞いて、王子先輩は露骨にイラッとした表情になった。
「知らないよ。自分で考えたら?」




