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坊ちゃん先輩は呆れたあまり、何も言えない様子。
私もため息をついてフロアの中心に目をやった。
王子先輩が、びっくりするほど華麗なステップを踏みながら、礼子さんを抱き寄せて踊っている。
「でも、やっぱり王子先輩はダンスお上手ですよね?」
社交ダンス部員としての忠誠心には問題がありそうだけど、そんなこととは無関係に。
「ああ。まあ、確かにスキルだけ見るとな」
「ホントに。こうやって遠くから見てる分には」
またまた深いため息が出ちゃった。
ホント。遠くから見てれば、こんなにステキなのにね。なんで近付いちゃったかなー、私ったら。あはは。あははは。
「え、ええと!」
坊ちゃん先輩が、あわてたようにフロアを指さした。
「ほらあれ! ナルさんが何か仕掛けてる!」
え? ナルさんって、王子先輩のお父さん? あの、漁港でランニング一丁でぶらぶらしていた。
その時、会場がわっと湧いた。
ダンスの輪の中から、背の高い、体格のいい男の人がパートナーを上手にリードして出て来た。 白いシャツにネクタイで、キビキビした動きがカッコいいあのオジサマは。えー、もしかして、ナルさん?!
うわー、漁港にいた時とは別の人のようだ。なんというか、王子先輩と親子だな! 恐ろしい!
ナルさんとパートナーの女の人は、踊っている王子先輩と礼子さんのすぐ傍まで寄っていった。
挑みかけるような、派手なアピールを繰り返す。
「あのオッサン。ホント、勝負とか好きだな」
げんなりした表情と声で、坊ちゃん先輩が呟く。
「あ、でも。受けたみたいですよ。ほら」
私は指さした。
王子先輩たちの動きが変わった。
今までよりいっそう速く、いっそう華やかに。
講堂の中にどよめきが上がった。
上手な二組が真ん中でそれぞれ、今までよりさらにハデなパフォーマンスを始めたのだから、観客は大喜びだ。
「アイツ。目立つのはキライとか言うくせに、負けず嫌いだから」
呆れたように呟く坊ちゃん先輩。
「勝負を挑まれると断らないんだよな。バカだバカ」
そうなんだ。つくづく、内面は王子らしくない成分だけで出来てるな、王子先輩。
「ナルさんのパートナー、誰ですかね」
赤いキレイなワンピースの女の人。靴はキレイな金色のダンス靴。
奥さんの礼子さんは、王子先輩と踊ってるわけだから。
「スマン、ウチの母だ」
派手好きなんだ、と付け加えて、恥ずかしそうにする坊ちゃん先輩。
そうなんだ! 真面目な坊ちゃん先輩のお母さんは華やかマダム! ううむ、新事実を知ってしまった。
ナルさんと坊ちゃん先輩のお母さんはノリノリでクルクル回っている。礼子さんは王子先輩にリードされて、何とか踊っている感じ。
「いいな」
思わず、口を突いて出た。
坊ちゃん先輩が「はい?」と、こっちを向く。
「王子先輩、とても優しくて。お母様をとても大切に思ってるのがよく分かります。まるで、お姫様を守るナイトみたい」
私の時は、まるで鬼だったけどね! あそこまで態度違うって、仕方ないけどムカつく。
でも。
「ちょっとうらやましいです」
私は言った。
「いつか王子先輩に愛される人は、きっとすごく幸せですよね」
きっと、女神様みたいに大切にしてもらえるんだろうな。
「イヤ、うらやましいか?」
坊ちゃん先輩が訝しげに聞いた。
「相手はアレだぞ?! 俺には変態チックな絵しか思い浮かんでこないんだが」
妻を監禁してるところとか、妻の足を舐めてるところとか、と数え上げる坊ちゃん先輩。
「基本的に、『大切にする』の意味を取り違えてるからな」
ううむ。確かに、それはそれでたやすく想像できるような。
悪役も変態も似合うぞ、あのヒト。




