1
講堂の入り口まで来た時。中から、すごい歓声が聞こえた。
「ん? なんかやけに、にぎわってるな」
「ダンスは例年盛り上がりますから」
とは言ったが、この若い女の子のキャーキャー言う声。
確かに、芸能人が来てるのか、と思うくらいの騒ぎだ。
その原因は、会場を見たらすぐに分かった。
真ん中のの目立つところで、一組のペアがクルクル回っている。
優雅な身のこなし。複雑なステップ。そしてあでやかなルックス。着飾った社交ダンス部員の中で、Tシャツジーンズなのにものすごく目立っているあの人は。
「王子先輩……」
今日はひときわ王子度が高いな!
そりゃあ、女の子がキャーキャー言うわ。
「相変わらず、ムダに派手だなアイツは」
坊ちゃん先輩が渋面を作った。
「学祭では踊らないんじゃなかったんですか」
「そう思ったんだが」
言いかけた坊ちゃん先輩が、何かに気付いたように言葉を止める。そして、すごい勢いで私を見た。
「久住さん?! まさかと思うが、アイツをダンスに誘ったりとかしたのか?」
「何をおっしゃるんですか!」
思わず叫んでしまう。
「そんな恐ろしいこと! するわけないじゃないですか!」
というか、もうコリゴリだし。
「ところで、王子先輩と一緒に踊ってるのって」
先輩と同じく、Tシャツにジーンズのラフな姿だが。
「礼子さん……だな」
坊ちゃん先輩はうなずいた。
まさか、あのマザコン発言を公衆の面前で現実にするとは! 王子先輩、侮りがたし!!
「本当に踊っちゃうんですねえ。確かに、学祭では誰と踊るんですか、って聞いたら『お母さんと踊りたい』とおっしゃってましたが」
「そうなのか」
坊ちゃん先輩は、コホンと咳払いする。
「あー、あのだな、久住さん。あのアホウとずいぶん親しげに学祭の話をしていたようなんだが?」
ああ。そうか。
ダンス特訓までは、坊ちゃん先輩のいないところで王子先輩と私が話をするなんて、ほとんどなかったし。
言っちゃっても、いいかな。
王子先輩には、「学祭が始まるまでは絶対に」特訓のことを言うな、と言われてただけだし。ということは、学祭が始まったら解禁、でいいんだよね?
「実はですね」
決めた。いいや、話しちゃえ。
「何だか分からないんですが、一か月ほど前から王子先輩が『学祭に備えて特訓だ!』とかおっしゃって、毎日毎日、講義が終わると私を連れ出して、ダンスの特訓を」
「はあああ? 何だソレ?」
坊ちゃん先輩は、あんぐりと口を開けた。
「アイツ、最近つかまらないと思ったら、そんなことしてたのか?」
そうなんです、と私はうなずく。
「私はダンスとか興味ないですし、丁重にお断りしたんですが、『お前の意志なんか聞いてないんだよ! 僕がやれと言ってるんだ!』と強引に押し切られてしまって」
「イヤ。それ、強引というより、もう人権を認められてないよな?」
「それで毎晩毎晩、王子先輩と血のにじむような特訓を」
思わず足をさすってしまう私。
本気で血がにじんだもんなあ。ステップ間違えると容赦なく足踏んだり蹴られたりするし。




