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オーケストラ部の発表が終わると、学祭もいよいよ終了ムード。
うちの大学、一日しか学祭やらないんだよね。準備が大変なんだから、二日くらいやってもいいのに。
で、講堂の最後の催し物はダンスパーティー。これが四時から始まって、そのまま後夜祭になだれこみ、なんだかんだ七時くらいまで続くのが毎年のお決まり。
「おつかれさまです、ぼ……じゃない、高原先輩」
私は司会の任から解き放たれて、一息ついている坊ちゃん先輩に、新しいスポーツドリンクを差し入れた。
役員特権。表では女の子が群がって来てこんなこと出来ないが、一緒に役員を務めたからこそ、こういうことも出来るんだもんね。
「ありがとう。久住さんもお疲れ様」
「高原先輩は、このままダンスパーティーですか? 大変ですね」
ダンスが優雅に見えるのは外見だけ、実際はとんでもなくハードなスポーツだと、この一ヶ月で思い知った。
「いや、さすがに少し休む。まあ、ダンスコンテストには参加しなければならないだろうが」
ダンスコンテストは、ダンスパーティーの目玉。
社交ダンス部の歴代OBと、マダム・ピンク(顧問)が審査員になって、その年一番パーティーを盛り上げたダンサーさんを選ぶの。確か、王子先輩が三年連続「ミスター・ダンスパーティー」。
「どなたと踊るんですか?」
聞いてみた。男子学生の少ない社交ダンス部、しかも坊ちゃん先輩。さぞかし激烈な女の戦いが水面下で行われたに違いない。
わあ、考えるだけですごそう。まあ、王子先輩争奪戦はもっと激しかったに違いないが。
「いや、それが」
坊ちゃん先輩はちょっと複雑な表情をした。
「アミダで当たった女子学生と踊る予定だったんだが。坪田のヤツが、四年は主力で踊らない方がいい、とか言い出し始めて」
選抜方法アミダなのか!
そして、王子先輩また何かやってるよ!
「来年がある三年以下が主力でコンテスト上位を目指すべき、とか言ってな。それはそうなんだが、サークル内の男女比が大きいし、ここで俺と坪田が抜けたら下級生が困るんじゃないかと思ったんだが。あのバカ、言い張って持論を曲げない」
坊ちゃん先輩は大きくため息をついた。
「結局、三年以下があきらめて、それを受け容れて。俺たちは参加はするが、任意でいいという扱いになったんだ。まあ、ひと休みしたら相手のいない下級生と組んで踊らなくちゃいけないな。どうせ坪田は、何もしない気だろうから」
そうなんだ。
「てっきり、王子先輩はダンスコンテスト完全制覇を狙っているのかと思ってました」
と言うと。坊ちゃん先輩はしみじみと私を見て。
「あのな。坪田だぞ? アイツが、やらなくてもいいことをわざわざやったりするものか。自分が踊りたくないから、あんな提案をしたんだ。まったく、責任感というものが欠如していて困る」
「踊りたくないって、王子先輩は社交ダンス部ですよね?」
「そうなんだが、いろいろ入部の時に経緯があってな」
言葉を濁す坊ちゃん先輩。何があったんだろ?
「まあ、そういうわけで、今日は坪田の分も俺が踊らんといかんだろう」
そう言う坊ちゃん先輩は、真面目な人だと思う。
自分がたくさんの女子から狙われてるって、知っているのかな?
講堂の方から音楽が流れて来て、ダンスパーティーが始まったのが分かった。司会は委員長が務めているはずだけど。
「ところで、久住さんはその、誰かとダンスをしたりするのか?」
不意に聞かれて、私は息が止まったような気がした。
王子先輩が、坊ちゃん先輩と踊れとか、ヘンなことを言うから、意識しちゃうじゃない。
「いえ、別に。その、そもそもダンス自体、今まであまり踊ったことがありませんで」
モゴモゴ言う私。
坊ちゃん先輩は「そうか」とアッサリうなずいた。
「まあ、習いでもしていなければ踊れんよな。まあ、今日の催しは気楽なものだから、好きに踊って楽しんでくれればいいよ」
汗を拭いて、サッと立ち上がる。
うん、まあ。これが現実だよね。世間話程度の話題だよ。
あんなにダンスにこだわる、王子先輩がオカシイ。
でも。
言えば良かったかな。
下手くそだけど、踊れます、って。
一ヶ月、あんなに練習したんだから。一度くらい。
坊ちゃん先輩は大股に控室を出て行く。
私も何となく、その後に続いた。




