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何とか王子先輩を引き止め、片付けを手伝わせようとしたものの。
結局、三十分も経たないうちに逃走されてしまった。
「王子先輩のバカあ! ドヘタレえ! 帰って来てくださいよお!」
窓から顔を出し、逃げ出す先輩の背中に罵声を浴びせる私。
先輩はくるりと振り返り、私に向かって実にいい笑顔で手を振った。
「じゃサヨナラ、クズひま。僕がいなくても元気でね!」
そのままサッと暗闇に消える。
あのドヘタレ男があ!
でも、前に『一部のヒトにしか見えないヒト』に会った道は通らないんだ。実は、あれ以降一回も通っていないんだよね。
「フン! 『一部のヒトにしか見えないヒト』がいるのがあの道だけじゃないとも知らないで!」
不満をぶつける相手もなく、ひとり呟く私。
そこら中にいますよ! 王子先輩のばーーーか!!
そして、私の前には膨大な量の片付けだけが残されるのであった。
「最後までメイワク……。いったい、どうやったらこんなに部屋を散らかせるのよ」
寝室のクローゼットまでくまなく荒らされたので、本当に空き巣でも入ったみたいな状況。
仕方ないので、ブツブツ言いながら落ちているものを拾い始める。
「まあ、こんなことも今日かぎり。あの悪夢のようなダンスレッスンも、寄生生活も終わり。やっと私の自由な人生が帰って来るんだわ!」
口に出してみると、喜びがこみあげてきた。
「王子先輩のいない帰り道。王子先輩のいない夕食。お豆が入ってるとか入ってないとか、ダンスのステップが合ってるとか間違ってるとかに左右されない生活」
なんって解放感!
「ティーポットを投げつけられたりすることもないし。ハダカで脅されたり怒られたり。オバケだとかお茶の濃さとかで文句言われたり。お母様への異常な愛情を嬉しそうに語る話をおとなしく聞いていなくてもいいんだわあ」
それにしても、改めて思い返してみると。一ヶ月の間ロクな目にあってないな、私。
「まあ、明日は忙しいだろうけど。その後は、ゆっくりと自分の時間を楽しませてもらいましょ」
やれやれ、本当に肩の荷が下りた気分。
さっき、『ちょっと淋しい』とか思ったのは、気の迷いね!
片付けには時間がかかったけれど、その喜びを力の源として、私は最後までやりきったのだった。




