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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
長いサヨナラ
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「じゃ。帰るから」

 荷物を持った王子先輩は、玄関で振り返って言った。

 大きめのバッグを持っていたのだけれど、それでも入りきらなかったので、うちにあった紙袋を二つ貸した。

 今日、先輩がバイクで来なかったのは何かの天啓に違いない。


「明日は頑張って、僕の言った通りにステップを間違えないでね」

「ハイハイ」

 もう何度も聞いた、そのセリフ。まったく意味不明なままだけど。


 すると。王子先輩は急に私の方に手を伸ばし、クシュクシュと頭をなでた。見下ろす顔は、何だか妙に優しげだった。

「ちゃんと部屋をキレイにしておけよ? 明日は、僕じゃない男がきっとお前を送って来るからさ」


 私は、とまどう。

 何だか当たり前のように、遅くなったら王子先輩が送ってくれる気がしていたことに、その時気が付いた。


「え? 明日は送ってくださらないんですか?」

 バカみたいに問い返した私に、先輩は怒った。

「当たり前だろう? バカか、何言ってんだ!」


 このキレ顔。一ヶ月の間にどれだけ見たことか(乾いた哂い)。


「明日も僕に送らせるつもりだったのか! 男作る気ないのかお前は! って言うか、僕は僕で予定があるんだから、お前の世話ばっかりしてられないんだよ!」

 いつもどおりの、人を見下した言い方。


「ああ、そうですよね。王子先輩には彼女さんもお母様もいらっしゃるし」

「そうだよ! お前なんかの世話を焼いてる場合じゃないんだよ!」

 きっぱりと言い切る。


 そうかあ。

 こんなやりとりも、今日で最後なのか。


 もちろん、大学では会うだろうけど。 関わる頻度はずっと少なくなる。

「そう思うと、ちょっとサビシイな」

 気が付くと、私はそんな呟きをもらしていた。


 しんみりとした気分の中。私は、ふと背後を振り返った。

 そこに見えるものは。


 家中のいたるところ、抽斗という抽斗は開けられ、戸棚という戸棚のモノは引きずり出され、ぶちまけられたモノで床がほとんど見えないという惨状。


「部屋をキレイに? コレを私一人で?」

 そんなの。無理に決まってるでしょうが!!

「ちょっと待ってください! 帰らないで! 一人で片付けるなんて、無理ですよ! 明日は学祭で、私、早起きしなきゃいけないし、きっとメチャクチャ忙しいんですから、手伝ってから帰って!」

 素早く、かつ必死で先輩を引き止めにかかる私。


「イヤだよ! 何で僕がお前の家の片付けなんか手伝わなきゃいけないんだ」

「何で? ほとんど王子先輩が散らかしたんじゃないですか」

 厳粛なる事実をつきつけてやると。


 先輩はなぜか、胸を反らした。

「言っておくけどな。僕は、片付けとか役に立たないよ!」

「堂々と言わないで下さい! 何でしたら私が指示を出しますから、ちょっとでもいいから手伝ってから帰って!」


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