6
「じゃ。帰るから」
荷物を持った王子先輩は、玄関で振り返って言った。
大きめのバッグを持っていたのだけれど、それでも入りきらなかったので、うちにあった紙袋を二つ貸した。
今日、先輩がバイクで来なかったのは何かの天啓に違いない。
「明日は頑張って、僕の言った通りにステップを間違えないでね」
「ハイハイ」
もう何度も聞いた、そのセリフ。まったく意味不明なままだけど。
すると。王子先輩は急に私の方に手を伸ばし、クシュクシュと頭をなでた。見下ろす顔は、何だか妙に優しげだった。
「ちゃんと部屋をキレイにしておけよ? 明日は、僕じゃない男がきっとお前を送って来るからさ」
私は、とまどう。
何だか当たり前のように、遅くなったら王子先輩が送ってくれる気がしていたことに、その時気が付いた。
「え? 明日は送ってくださらないんですか?」
バカみたいに問い返した私に、先輩は怒った。
「当たり前だろう? バカか、何言ってんだ!」
このキレ顔。一ヶ月の間にどれだけ見たことか(乾いた哂い)。
「明日も僕に送らせるつもりだったのか! 男作る気ないのかお前は! って言うか、僕は僕で予定があるんだから、お前の世話ばっかりしてられないんだよ!」
いつもどおりの、人を見下した言い方。
「ああ、そうですよね。王子先輩には彼女さんもお母様もいらっしゃるし」
「そうだよ! お前なんかの世話を焼いてる場合じゃないんだよ!」
きっぱりと言い切る。
そうかあ。
こんなやりとりも、今日で最後なのか。
もちろん、大学では会うだろうけど。 関わる頻度はずっと少なくなる。
「そう思うと、ちょっとサビシイな」
気が付くと、私はそんな呟きをもらしていた。
しんみりとした気分の中。私は、ふと背後を振り返った。
そこに見えるものは。
家中のいたるところ、抽斗という抽斗は開けられ、戸棚という戸棚のモノは引きずり出され、ぶちまけられたモノで床がほとんど見えないという惨状。
「部屋をキレイに? コレを私一人で?」
そんなの。無理に決まってるでしょうが!!
「ちょっと待ってください! 帰らないで! 一人で片付けるなんて、無理ですよ! 明日は学祭で、私、早起きしなきゃいけないし、きっとメチャクチャ忙しいんですから、手伝ってから帰って!」
素早く、かつ必死で先輩を引き止めにかかる私。
「イヤだよ! 何で僕がお前の家の片付けなんか手伝わなきゃいけないんだ」
「何で? ほとんど王子先輩が散らかしたんじゃないですか」
厳粛なる事実をつきつけてやると。
先輩はなぜか、胸を反らした。
「言っておくけどな。僕は、片付けとか役に立たないよ!」
「堂々と言わないで下さい! 何でしたら私が指示を出しますから、ちょっとでもいいから手伝ってから帰って!」




