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「ダメだ、そんなの。一曲でいい、何が何でもダンスをしろよ」
「そんなこと言われても。パートナーもいませんし」
「知るか! 探せって言ったろ!」
お怒りになる王子先輩。
「そうだ。どうしてもいなかったら、ホラ、高原とかさ。絶対パートナーいなくてあぶれてるから」
「坊ちゃん先輩? 有り得ませんよー」
私は笑った。また、王子先輩は有り得ないことを。
「だいたい、坊ちゃん先輩も実行委員ですよ」
あの面倒見の良さを発揮して、いつの間にか実行委員になり、いつの間にか委員の中でも中心的人物になっている。
坊ちゃん先輩の頑張りなくして、今年の学祭は回るまい。
「え? そうなの?」
またしても愕然とする王子先輩。親友なのに、知らなかったのかしら。
「あ、でも、坊ちゃん先輩は社交ダンス部だから、ダンスパーティーの時間のタイムシフトは空いてるのかな。でも、坊ちゃん先輩ですよ? ダンスの相手なんか、引っ張りだこに決まってるじゃないですか。私なんかの出る幕有りませんよ」
ここぞとばかりに、大学中の坊ちゃん先輩狙いの人が出てくるに決まっている。そんな恐ろしい空間に、首を突っ込む気にはなれない。
「そんな、どこの誰とも知れない女どものことなんかどうでもいいんだよ!」
王子先輩はまた、怒りだした。
「僕があぶれてるって言ったらあぶれてるんだよ、高原は!」
「でも、社交ダンス部の割り当てで、踊る人が決まってるんじゃ?」
「そんなの関係ないから、誘ってみろってば!」
関係ないって。部員の言うことだろうか……。まあ、王子先輩だからなあ。
それにしても、何をこんなにムキになってるんだか。
「王子先輩は、明日どうなさるんです?」
私は話を変えようとして言った。
「彼女さんと踊るんですか?」
「何言ってんの、お前」
眉をひそめる先輩。
「家庭のある女だ、って言ったでしょう。目立つところで堂々と連れ回せるわけないだろう?」
堂々と胸を張ってそれをおっしゃる……。
「ああ、そうでしたね。不倫君でしたね」
なんか……。HPをすごい勢いで奪われて行く気がする。
「まあ、それで幸いだけど。あんなケバくてシツコクて頭の悪いオバサンの相手を一晩中するなんて願い下げだからね」
肩をすくめる王子先輩。
なんだかなー、この言い方。ひどすぎない? 自分の彼女でしょ。
「ええと、スミマセン。一つ、確認させて下さい。彼女さんとは、当然好きで付き合ってらっしゃるんですよね?」
「はあ? 好きで……?」
意味不明なことを聞かれたヒトのカオで問い返された!
ああああああ! 聞かなきゃ良かったあ! このヒト最低だあ!!
先輩は怪訝そうな顔のまま、額にかかるサラサラの前髪をかき上げる。
「ダンスなんてバカバカしいよ。一人相手にすると、次々に群がってくる女全員の相手をしなきゃいけなくなるし。やってられないな」
あー、音声消去して、映像だけ眺めていたいわ。現実にもそういう機能があればいいのに。それにしても。
「フツウにおっしゃいますけど、スゴイ内容ですね」
群がってくるって。
それにしても、社交ダンスのこと全否定。社交ダンス部員として、この態度はアリなのか。
「あ、でも。お母さんとはちょっと踊りたいかなあ?」
放っておいたら、マザコンが頬を赤らめて何か言い出しやがりましたよ。
「お母さんのこと、誘ってみようかなあ?」
顔がゆるんでいる。
「どうしよう、考えただけでドキドキしちゃうなあ! お母さんをこんな風に腕に抱いてさ、ターンの後こうやって抱き寄せちゃったりして……」
マザコンの人が、いろいろポーズをつけながら、妄想に精出していらっしゃいますが。
ウフフフフフ、とか笑っててキモい。
「あの。うっとりしてらっしゃるところ申し訳ありませんが」
目の前にいるものとして、これだけは言っておこう。
「今の先輩のひとり言は、世間的にはマザコンのたわ言ですからね?」
みんなダマされてるよ。実態はこんなザンネンなヒトなのに。




