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深夜のアパート。その静まり返った夜気に、男女の抑えた喘ぎ声がかすかに響く。
「そう……。もう少し……もう少し頑張って……」
「ダメ……。あっ……イタイ……」
「ガマンして。あと少し、あと少しだから」
「ウッ……イタイ……イタイです……」
「ちゃんと僕の言うことを聞いて? お前はいつも反抗的なんだよ……。もう少し……。ホラ、これで……」
二人とも息が荒く、声は途切れがちになる。
大変いかがわしいことをしているかのようだが、別にそういうわけではなく。
リビングのCDコンポから、ワルツの最後のフレーズが流れてくる。
やや……というか、私的には結構無理のある決めポーズを、その音が完全に消えるまで決め続ける……ひー、苦しい、助けて。
「よし。これで終わりにしよう」
CDが止まるのと同時に、王子先輩はため息をひとつつき、私をパッと離した。
ちょっと! 私、自力ではバランス取れないようなポーズだったから!
そのため、手を離されると同時に床に落っこちる私。
「イタイイタイイタイ! 腰が! 背中が! 関節が!」
「ウルサイ」
自分もソファーに転がり込みながら、王子先輩が言った。
「まだ全然ダメダメだけど。とりあえず、この程度出来てればなんとかなるだろ。振付を派手にしといたから、見せ場をきっちり決めれば技術の未熟さも多少はカバーできると思う」
「どうもありがとうございました」
とりあえず、お礼を言う私。
「でも、私ダンスとかあんまり興味ないんですけど」
そして一度も教えて下さいとお願いした覚えはないんですけど。
「何でだよ。学祭のダンスパーティって言えば、年間で最大のカップルイベンだろうが。何でそんな日を目前にして、興味ないとか言ってるんだ! 色気がないにも程があるだろ」
「だって私、彼氏とかいないですし!」
何か腹立つ言い方だなあ。むっす~~。
「バカか! そんなもん、いなけりゃその場で調達しろよ!」
一蹴なさる王子先輩。先輩、それはモテるヒトの理屈です。
「あのですね。王子先輩には分かりにくいかもしれないんですが、フツウはこういうイベント前に、パートナーが欲しい人はしっかりと根回しをして相手をつかまえておくものなんです」
「はあ? 何言ってるの、お前。そんな堅苦しいことを言ってるから男が出来ないんだろう。暗がりでニコニコしてれば、ダンスのパートナーになりたがる男くらいいくらでも寄って来るよ」
なんか……最低の表現。ダンスパーティーのパートナー探しが、ものすごくいかがわしい行動に聞こえる。
そして、そんなことで寄ってくる男子はなんかヤダ。




