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翌晩。王子先輩の家のダイニングで、私は礼子さんが作った料理(肉団子・中華あんかけ風)をいただいた。
「オイシイ! 私が作ったのと全然違うー!」
ああ、いっそシアワセ。家にご飯作ってくれるヒトがいるって、いいよね。
「ウン。ホメてくれるのは嬉しいんだけどさ、ヒマワリちゃん」
どことなく訝しげな顔で尋ねてくる礼子さん。
「アンタいったい、今ウチの息子と何やってるの? こんな夜中に連れて来られて。そして、あの大量の肉団子はイッタイ? いや、おいしかったからいいんだけどさ」
うーん、いろいろ説明しにくいのだが。
「ハイ! いろいろお世話になったりお世話をしたりしてます!」
とりあえず、元気よくそう返事しておいた。
「それにしても、おいしいです! どうやったらこんなにおいしいお料理が作れるんですか?」
尋ねる私を、ニッコリ笑いながら見守る王子先輩。
「ハハハ。コイツの料理のセンス最悪だから、お母さん、教えてあげて?」
そこ、ウルサイ。サイアクとか言う短評いらない。
けど、楽しそうで優しげで、私の家に来る時とぜんぜん態度が違う。
考えてみると、王子先輩の家で、先輩と家族の人が一緒にしゃべっている所って、私、初めて見るんだ。
私の家にいる時は、基本セリフに「!」がついてるくせに、誰、このいい声といい笑顔でしゃべるヒト。
そんなこと思っている間に、王子先輩は食事を終えて席を立った。家でもやっぱり、量はそんなに食べないのね。
「ああ、おいしかった。やっぱり、お母さんの料理が最高だね」
優しく温かみのある表情で微笑む。ホント、私のうちにいる時とは違うヒトだな!
といっても、大学にいる時とも違うけど。
なんていうか、人間味があるというか。単純に嬉しそうと言うか。
「じゃ、僕はシャワーを浴びて来て、その後ソイツを送って行くから」
そのまま部屋を出ようとする先輩のシャツの端を、礼子さんがはしっとつかまえた。
「待てえ! さりげなく煮豆を残していくんじゃありません。つけあわせまで、ちゃんと食べなさい!」
「バレたか」
舌打ちする王子先輩。あら、グリーンピースだけじゃなく、お豆全般苦手?
そう言えば、いつも「豆」って言ってるな。
「バレるに決まってるでしょ。ほら、座って、ちゃんと食べるの」
「いや、あのね、お母さん? 栄養価で言えば、僕はもう十分摂取してるわけで。豆なんか食べなくても、カロリーはもう」
「カロリーの話じゃない! バランスの話でしょ、ホラ、言い訳してないで食べる!」
そうやって、好き嫌いする先輩を叱っている礼子さんと、見苦しく言い訳する王子先輩は、何だかとっても普通で。仲良し親子で。
私も、ちょっと実家が恋しくなっちゃった。
王子先輩のマザコンには問題があると思うけど。王子先輩のおうちは、いいなあ、って。
温かい気分になった。




