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「むしろメンドクサイのはウチだよね」
王子先輩は言って、困ったような顔をした。
「残そうとすると、お母さんが悲しそうなカオをするんだ」
「ああ。ホントに、お母様には弱いんですねえ」
私に対する態度と全然違うんだけど。フツウ逆じゃない?
まあ、王子先輩にフツウを求めること自体が間違ってるかもしれないが。
「アレには参るよね。お母さんの目を盗んで、お父さんやおじいちゃんに食べてもらおうとするんだけど、二人とも面白がって協力してくれないし」
「イヤ。それは、フツウに王子先輩の体を心配なさってるのでは?」
そんな、家族を疑わなくても。
「違うね。あれは絶対、面白がってる」
確信的に言い切る王子先輩。
ああ、そうですか。
「それならそういうことでいいです」
もう、最近はムダな論議はしないことにしている。疲れるだけだから。
全力で、流す。それが一番。
「とにかく!」
仕切り直して、王子先輩は居直った。
「こんな豆入りの肉じゃがなんか食べないから。肉じゃがなら、お母さんの作ったヤツの方がオイシイし」
「ええー? そんなこと言わないでくださいよ」
「他のを食べるから。それでいいだろうが、こんなにあるんだから!」
王子先輩は、皿の上に積んだ肉団子にフォークを突き立てる。
「で?! コレは何?」
「ああ、それは……。塩コショウでサッと焼いてみました」
私は料理の説明をする。
「隣のお皿は、ソースで煮込んでみて。そっちは、相田さんに教えてもらった伝統的な料理法でやってみたんです。それからこっちは、野菜と一緒に炒めてみて」
*
それから、およそ二十分後。
ダイニングにはお通夜のような雰囲気が漂っていた。
テーブルの上には、一口だけ手をつけて放置された皿が、点々と放置されている。
「ああ。お母さんの作った肉じゃがが食べたいなあ」
これ見よがしに深いため息をおつきになる王子先輩。
「ミソノ(王子先輩お気に入りレストラン)の料理でもいい。あそこのパスタおいしいよね。スープもおいしいし、肉料理も」
「申し訳ありませんでしたねえ!」
つい、イラッとして大声を出す私。
「王子先輩のお口に合うものが作れなくて!」
と。先輩は、二重のキレイな目でギロリ、と私をにらみつける。
「全くだよ! ヒトをわざわざ深夜に呼びつけてこのザマか。犬のエサを量産しやがって」
超・不機嫌~。
お口に合わなかったのは申し訳ないですが、もう少し言葉を選べませんか?
「もういいですよ!」
私もプンプンしながら、残った料理にラップをかける。
「どうせ都会育ちの王子先輩には、地方の料理はお口には合わないんですよ」
私は美味しかったのに、相田さんちの肉団子。
「違う! 団子自体は悪くないよ!」
ムキになって言い返してくる王子先輩。
「お前の味付けが最悪なんだ! どうやったらあんなモノを作れるんだよ」
むー。口悪い。
「一生懸命作ったのに」
「いくら一生懸命作ったって、食べられなきゃ意味ないだろう? 食べ物を粗末にすると、バチが当たるんだぞ?」
なんかおじいちゃんみたいなこと言い出したし。
「粗末にしてませんよ! ちゃんと食べられます!」
「当たり前だ、ちゃんと食べろよ! 食べ物が食べられるというのは幸せなことなんだからな?!」
なぜか説教される私。そんなこと言うなら、アンタが食べてよ。




