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「この前置いといた僕の着替え持ってきて」
先輩はバスルームから顔を出しながら言い付ける。
また上半身ハダカだよ。もう慣れたけど。下をはいてるだけマシ。
持って行って渡す。
「ホントは、着て来たものいつもお前が洗っといてくれると楽なんだけどな。毎日持ってくるのメンドクサイんだよね」
ボヤく王子先輩。
何言ってるのこのヒト。彼女でも何でもない私の家に、パンツの替えとか置くな。
ちなみに王子先輩のパンツのお好みはボクサータイプである。色は紺とか黒とかグレーの、シンプルなヤツが多し。
彼女でも家族でもないのに、こんなこと知っているのは私だけね、きっと!
「そんなことムリに決まってるでしょう? 私、女の一人暮らしなんですよ? 王子先輩の下着なんか干せませんよ!」
ご近所中から何やってるかと思われる。このアパート、結構付き合いが密だし、誤解されたらホント困るから。
「女ってメンドクサイ」
ため息をつく王子先輩。アンタが言うな!
「メンドクサイのは王子先輩ですよ。私を何だと思ってるんですか」
すると先輩は、私の顔をまじまじと見てから、にたあ、とイヤな笑い方をして。
「決まってるでしょう。『クズ』で『ひま』な久住ヒマワリさん」
と言って、バタンとバスルームのドアを閉めてしまった。
何なの! そしてあの呼び名、やっぱりそういう意味だったのかい!
あー、この前、寝顔にちょっとドキドキしたりして損した。
シャワーが終わって、王子先輩はアクビをしながらキッチンにやって来た。
それまではデート仕様で割とパリッとしていたんだけど、着替えたらTシャツとイージーパンツでゆるみきったカッコウに。
そんなんでも、色と柄のセンスだけはいいのが逆に腹立たしいが。
「ああ、疲れた。で、僕に何を食べろって?」
キタ! ここが、私の女子力の魅せ所!
クズでヒマな女とか、もう言わせておかないんだから!
「お待ちしてました。準備は出来てます」
自信満々に、テーブルに並べた料理を示す。
「さあ、一緒に食べましょう!」
ダイニングテーブルいっぱいに、様々な料理が並べられている。
それはシチューだったり、焼いたモノだったり、タレにからめたものだったり。
思いつく限り、そして時間の許す限り、頑張ったよ私!
さあ、王子先輩。この私の女子力の前にひれ伏すが良い!
「いやあ、大変でしたよ。何が王子先輩のお口に合うか分からないので、とりあえず色々作ってみたんですけどね。時間があったとはいえ、こんなに料理をしたのは正直、久しぶりでした」
謙遜しようとしつつ、つい「やりきった感」が口から出てしまう私。
まだよヒマワリ。勝利は、「美味い」と言わせてからよ。
ごちそうの山を見た王子先輩は、感激して感涙……と思いきや。
「オイ?」
なぜか、呆然とした様子。椅子にもかけず、立ったままテーブルを眺めている。
「ハイ?」
「ハイじゃない! 僕はもう、女とフツウに食事をしてきてるんだよ。それなのにこんな時間からこんな量が食べられるか! それも肉ばっかり!」
えええ?!
「ヒドイです王子先輩。私は食べないで待ってたのに、先輩ばっかりゴハン食べて来ちゃったんですか?」
約束したのにヒドイ。
「こんなに食べるなんて一言も言ってないよ! 味見だけのつもりだったんだ!」
そんな……そんなこと。そういえば、言ってたかもしれないけど。
だったら、これは。
先輩にいっぱい食べさせようと、張り切って作った私の頑張りは。
すべて空回りだったのね。
「せっかく作ったのに」
悄然となる私を見て、先輩は困ったような顔をして。
「食べるよ。食べるけど、全部はムリだからな!」
と言いながら、乱暴に椅子を引いた。




