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「実は」
私は更に声を落とした。
「下のお部屋の奥様から、ふるさとの特産という肉団子を山ほどいただいてしまって。一人じゃ食べきれそうにないから、王子先輩に少し持っていってもらおうと思ってたんですよ」
アパートの一階は、家族向けに少し大きな間取りになっている。私の下の階のおうちは相田さんと言って、奥さんと小学生のお子さんと、サラリーマンの旦那さんの三人家族。
二十代半ばの奥さんは、明るくて話しやすい人で、いろいろお世話になっている。
「ホラ、王子先輩なら、ご家族がいっぱいいらっしゃるからちょうどいいかと思って。でも」
私はため息をつく。
「デートじゃ今日は来られないですよね。どうしよう、ナマモノだからあんまりおいておけないし。あ」
イイこと思いついた!
「良かったら、彼女さんもどうですか? 肉団子。オイシイですよ。いっぱいあるから、ぜひ彼女さんにも持っていってもらえたら」
王子先輩は、私の言葉を黙って聞いていたが。
「バカかああ!」
急にブチ切れて、怒鳴り始めた。
「何で僕が、デートの途中で女を連れて、お前の貧乏くさいアパートになんか寄らなきゃならないんだよ! どんな貧乏デートだそれは!」
ああ、ダメでしたか。いいアイディアだと思ったんだけどなあ。
「そうですよね。スイマセン」
「だいたい何なんだ! その用件は!」
私があやまったにもかかわらず、先輩は憤懣やるかたない様子で怒鳴り散らす。
「僕をそんな、わけのわからない食材を整理するために利用しようとするなよ!」
わけのわからないって!
「ヒドイです! 私はただ純粋に、おいしかったから王子先輩にも差し上げようと思っただけなんですよ?!」
一応、好意で言ってるのに、あの言い方はヒドイ。ヒドイのはいつもだとはいえ、ヒドイ。
「そりゃあ、確かにどうせ来るんだから王子先輩に持っていってもらえばちょうどイイやと思ったことは否定しませんが。でも、美味しくないと思ったものを押し付けるようなことをしようなんて思ってないのに、ヒドイ」
「イヤ、そういう所帯じみた用件に僕を巻き込むなって言ってるんだよ」
すごくうんざりした顔をされた。いいじゃない。食は人生の基本ですよ!
「分かりましたよ」
私はため息をついた。
「オイシイのに。でも、来られないなら仕方ないし。今からでも誰か、他の友達に欲しくないか聞いてみます」
麻美ちゃんとか。まだ、大学にいるかなあ?




