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王子先輩の風邪は残念ながら数日で全快し、地獄のダンスレッスンはまた続くのだった。
せめて一週間くらい寝込んでくれても良かったのに。……とは言えず、しごかれ続ける、そんなある日のこと。
「ヒ・マ・ワ・リ・さん」
夕方の大学構内。教室から出て廊下を歩いていると、柱の陰からスッと出てくる影がある!!
「ひいいいい! また出た!」
「何だ、その言い方は」
王子先輩はとてもムスッとした表情になった。
何だ、って。何でそういう言い方をされるのか、胸に手を当てて考えてみてほしい。
「今日も行くんですね。ハイハイ、分かってます」
諦めを言葉ににじませながら、ついて行こうとすると。
「ああ、違う違う」
王子先輩は面倒くさそうに両手を振った。
「悪いけど、僕、今日は体が空かなくてさ。行けない、って言いに来たんだよ。ここのところ、お前にかまけてただろ。それで、付き合ってる女を放っておいたら、ちょっとメンドクサイことになっちゃって」
ため息をつく。
「シツコイんだよね、あの女」
いや、どんな人だか知らないけど。今の彼女さん。と言うか、この前別れたばっかりなのに、もう新しいのがいるのかい。
でも、要するに。今日は王子先輩は彼女さんのところに行くわけで。つまり、今日は。私はフリー?!
「ああ、そうですか。それはぜひ、一刻も早く彼女さんのところに行ってあげて下さい!」
おさえたつもりだが、喜びの気持ちが隠しきれなかったのか。王子先輩は、更に目に見えてムッとした表情になる。
「何、その態度。言っておくけど、学祭まであと十日しかないんだよ? あんなボロボロのステップしか踏めないくせして、何で僕が行けないって言ったらそんなに嬉しそうなカオをするんだ!」
お怒りであるが。
だって王子先輩の教え方コワいんだもん。悪魔による悪魔のためのレッスンというか。
「じゃ、僕は行くから!」
王子先輩はぷんぷんしながら私に背中を向ける。
「一人でちゃんとさらっとけよ!」
何で僕が行けないと分かった途端に、あんな清々したカオをするんだ。とか呟いているが。聞かなかったフリをしよう。
それにしても、とてもこれからデートに行くヒトとは思えない仏頂面。
でも良かった! これで今日は私は王子先輩から解放される。彼女さん、ありがとう。出来ればもっとしっかり王子先輩をつかまえていて!!
と。待てよ。何か忘れてる気が?
「あ、ちょっと待って!」
私の大声に、先輩はビクリとして立ち止まり、こちらを振り向く。
「何? 急に大きい声出さないでよ。ビックリするでしょう!」
「ス、スイマセン」
私は慌てて声を落とした。
「あ、あの。王子先輩。今日はおデートということは、彼女さんと一晩中ご一緒なんですよね?」
先輩はちょっと赤くなった。
「お前。そんなこと聞いてどうするの」




