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礼子さんはしばらく黙ってお茶を飲み、それからポツリと言った。
「あの子さ。自分に興味ない女の子としかフツウに接することが出来ないのよ」
ため息をつく。
「あれじゃ一生結婚できないわ。イヤ違う。結婚は出来るかもしれないけど」
まあ、あのモテっぷりだから。結婚したいと言えば、立候補者はいっぱいいるだろう。
けど、本当に礼子さんの言うとおりで、好きじゃないヒトとしか付き合ってないんだったら。
モモさんと話していた時の王子先輩を思い出す。
元カノのはずなのに、他人を見るような冷たい目をしてた。別れたから、嫌いになったから、そんな目をしてた。そう思ったけど。
「あのう、聞いてもいいですか?」
私はおそるおそる言う。
「 王子……じゃない、カズヒト先輩って、一見すごく怖くて冷たくて恐ろしいタイプのヒトですけど」
私の学食のランチを床にぶちまけてくれたり。
鬼のようなダンスレッスンをしたり。
ティーポットを叩き割ったり。
いろいろしてくれるけれども。
妙に高価なティーセットを買って、照れくさそうに渡してくれたり。
「坊ちゃん先輩の友達だって認めてやる」と上から言ってきたり。
毎日、自分の時間を割いてダンスレッスンしてくれたり。(頼んでないけど)
「よーーく気を付けて見てみると、実は意外にいいところ、ありますよね? なのに、どうしてあんなにヒドイことばっかりするんですか?」
礼子さんはキョトンとした目で私を見た。
それから、こらえきれないように笑いだす。
「ウン。そうなの。あの子、ああ見えて実は結構いい子なの」
「やっぱりそうですよね!」
そう言ってもらえて、私は何だか嬉しくなった。
「そうだと思ったんですよー。結構よく見てないと、分からないんですけどねー!」
礼子さんは笑うばかりで、私の疑問には答えてくれなかったけど。
一緒に笑っていたら、別にいいか、って気分になった。
そのうち。
「お、三軒堂の包み。豆大福かい」
そう言いながら、礼子さんと店番を交代したはずの欣治さんが、部屋に入ってきた。
「お父さん、店番は」
礼子さんが言うと、
「ちょっと休ませてくれよ。客なんか来ねえし、中から楽しそうな笑い声はするしよ。俺にも甘いモノ、くれや」
私が買ってきた包みをのぞく。
「なんだい、サーフィン最中? あー、あの雑誌に載ったとかいうヤツか。俺は豆大福以外食べないんだよ、っていつも言ってるだろが」
「あー、スミマセン。私が買ってきたんです」
私は恐縮する。地元民ならではの落とし穴! 他に好物があったらしい。
「おお、そうかいそうかい。そりゃわざわざ、すまんね」
欣治さんは人のいい笑顔を見せた。
「まあ、たまには違うモンもいいよ。いただくぜ」
そう言って、最中の包みを開けてもぐもぐと食べ始める。
「うん。けどなあ嬢ちゃん。この近所のヤツは、こういう新しいメニューは食わんのよ。これは、今の六代目が始めたヤツで、砂糖をケチってるし、どうも後味が悪ィんだよなあ。三軒堂なら豆大福よ。安くて甘くて、一番いいからな」
そうなのか。確かに、お店には売ってるけど、豆大福。
みんな、雑誌に取り上げられてたサーフィン最中とか、色のキレイなお菓子を買うよね。
「アタシは羊羹が好きだけど」
礼子さんがボソッと言った。
しまった!! ご家族狙いにしたつもりが、完全に外した!!




