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謎の王子先輩  作者: 宮澤花
王子先輩と坊ちゃん先輩と私
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 そう聞くと、坊ちゃん先輩は一瞬きょとんとして、それから納得いったというようにうなずいた。

「ああ。熟睡している。残念だったな。ただ、コイツは彼氏にするにはあまりお勧めできない男だということは忠告させてもらう」


「あー! いえ! そういうんではなくて!」

 誤解されてるなー、と思って、私はものすごい速さで両手を左右に振った。

「いいんです、お休みならその方が。お休みなさっている間に、私、急いで用を済ましますので!」

 そのまま、本棚に駆け寄って大急ぎで目当ての本を探す。焦っていたせいか、なかなか見つからなかった。

 私があまり挙動不審だったせいか、坊ちゃん先輩はまじまじと私を眺めた。


「えーと。君は?」

「あ、失礼いたしました。英文学科一年、久住ヒマワリです」

「ああ、そう。久住さん」

 言いかけて、坊ちゃん先輩は言葉を止める。

「……じゃなくて! 名前を聞いたわけじゃないよ」

「す、スミマセン!!」

 王子先輩の存在にビビっていた私は、むやみに謝ってしまう。


 坊ちゃん先輩はあわてたように、

「いやスマン。つい声を荒げた」

 と謝り返してくれた。思い返しても、初対面からいい人だな、坊ちゃん先輩。


 それから坊ちゃん先輩は不思議そうにたずねた。

「あのな。君、もしかして。このバカを避けてるか?」

 そう言って、寝ている王子先輩を指さした。

「スミマセン!」

 私は更に謝ってしまった。

「坊ちゃん先輩のお友達を怖がったりして!」

 それを聞いて、坊ちゃん先輩はぽかんと口を開けた。

「は? 怖い? コイツが?」

 不思議そうな顔をする。

「コイツ、結構女性には人気があると思っていたんだけど」


「あ、いえいえ! もちろん私も王子先輩は素敵だと思ってますよ? こんな綺麗な男の人見たことないし」

 そこのところは、掛け値なしに本当だ。

 ファンと言ってもいいと思う、と私が言うと、坊ちゃん先輩は納得いかなさそうに首をかしげた。

 それで、何だか説明しないのもおかしい感じになってしまい。

 仕方なく、私はあの恐怖の接近遭遇事件について簡単に話をした。


「もちろん悪かったのは私の方で、王子先輩は悪くないんですけれど」

 一応フォローを入れておく。

「ただ、あのう。また、あの真冬の雪嵐の如き眼で睨まれたらと思うと、怖くて怖くて。王子先輩のことは、遠くから見つめるだけでいいかなー、と」

 と言うか、できるだけ遠くから見つめたい。私のことなんか王子先輩の目に留まらないくらいの距離が常にあってもらいたい。

 そんな風に思ってるということを事細かに説明したところ。


「いや、それ、限りなく距離を取ろうとしてるよな?」

 そんなファンいねえよ! と、坊ちゃん先輩にツッコまれてしまった。


「つまり、要点をまとめると。君はこの男が大変苦手で、できるだけ遭遇したくないと思っている、と……そういうわけだな」

「あーいえ」

 私は言葉を濁した。

「そう言うと語弊があるのですが」


「いや、別にいいんだ。むしろ無理はないと思う」

 坊ちゃん先輩は深いため息をついた。

「機嫌の悪い時のコイツはホントにヒドイからな。格下と思った相手にもヒドイ。それが相乗したらどうなるのか考えるだけでコワい」


 そのしみじみした口調に。

 ああ、この人は本当に王子先輩と親友なんだな、って納得できた。

 だって。あの恐怖の接近遭遇を友だちに話しても、誰も信じてくれなかったんだよー!

 カッコいい王子先輩のイメージが強すぎるのか、仲のいい友達ですら私の言葉をまったく信じてくれなかった!

 それなのに、坊ちゃん先輩はまるで当然のことのように私の話を受け容れてくれている!


 それはつまり、坊ちゃん先輩はあのコワーイ状態の王子先輩をよく知っている、ってことであり。

 あのコワイ状態が真実の王子先輩の姿、ということにもなってしまうわけなんだけれども。


「いや、スマン。なんかスマン。俺が謝るのも変なんだが、やっぱりなんかスマン」

 そう言って、坊ちゃん先輩はしきりに謝ってくれた。

 その後、坊ちゃん先輩は、

「俺にも一応、高原康介って名前があるから、次からはそれで呼んでもらいたい」

 なんて言いながら、アドレス交換をしてくれたのだった。


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