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オバケ騒動の翌日。The day, いやThe night after。
ほとんどゾンビ状態で大学へ。
もう、フラフラです。
「ちょっと大丈夫? アンタ最近おかしいわよ?」
今日は特にオカシイ、と付け加えながら、麻美ちゃんが心配してくれる。持つべきものは友だちだなあ。
「ウン……。ゴメン。ちょっと、ハードなことがあって」
息も絶え絶えに言う私。
「ハードなこと? 最近、何か日に日にやつれて、悪霊にでも憑りつかれたみたいになってるんだけど」
私をツラツラと眺める麻美ちゃん。ヤメテ、その表現はヤメテ。
「麻美ちゃん」
私は低い声で、しかし断固として言った。
「この世に! オバケなんていないのよ?!」
麻美ちゃんは呆れた様子で私を見た。
「何、オバケって。アンタ、怪談とかダメな人だったっけ?」
「違う! それは私じゃない! 私じゃないのよおおお!!」
お願い。私をあのドヘタレ男と一緒にしないで。
「何なのよ。わけがわからないわ」
麻美ちゃんは、不思議そうに首をかしげる。
「ゴメン。わけあって細かい事情は言えないの」
私は憂鬱な気分で言う。どうして言えないかって言ったら、バラしたら私の惨殺処分が確定するだろうためである。
「けど、しばらくの間オバケを連想させるようなことを言うのはヤメテ」
ため息をつく。そして、その言葉を聞けば聞くほど、昨夜の記憶が生々しく甦ってきて、
「ものすごくイラつくから!」
おどろおどろしい恨みを込めて、そう毒づく私を見て麻美ちゃんはしみじみと言う。
「何だか分からないけど、苦労してるみたいね」
そうなのよ、と私はうなずいた。
「あのね。一つだけ教えて?」
麻美ちゃんは声を落した。
「男が出来たとかじゃないよね」
ガーーーーン! ものすごい衝撃。
「何?! それ!」
思わず渋面を作ってしまう。よっぽどひどい顔だったらしく、麻美ちゃんは。
「イヤ、ゴメン。そんなイヤそうな顔をしなくても」
と、かなり引き気味に謝ってくれた。
麻美ちゃんには悪いと思うよ? でもね。
「冗談でもヤメテ。二度と言わないで、そんなこと。キモチ悪い! 有り得ない!」
「ゴメン。イヤ、何か。もしかして悪い男にだまされているのかな、って思って」
麻美ちゃんは私を気遣うように言う。
「付きまとわれて利用されて、動きがつかなくなってるんだったら、何とかしてあげなきゃ、って思って。でも、そういうんじゃないみたいね?」
うーむ。何と答えたものか。
確かに、広い意味では『悪い男につきまとわれて動きがつかない状態』であることはある。
ただ、麻美ちゃんが想像してるのとは一から十まで違うんだけど。
私は深いため息をついた。
「心配させてゴメン。事情があって細かいことは言えないんだけど、ちょっとタチの悪いことに引っかかっていて」
思い出しただけで、顔と声が暗くなる。
「アンタ、大丈夫なの?」
私の肩をつかむ麻美ちゃん。私はそれへ、なんとか微笑んで見せた。
「ウン……。学祭までの辛抱だから」
遠い目をする私に、麻美ちゃんは驚愕する。
「ホントに何なの? 学祭のこと、そんなツラそうな目で語るヒト初めて見たよ?」
うん。私も語れるモノなら全てを語りたいんだけどね。
「あ。麻美ちゃんにあやまらなくちゃ」
私は暗い声で言った。
「え? 私に? 何?」
「誕生日にもらったティーポット、壊れた」
麻美ちゃんは『え?』と一瞬驚いた顔をするが、すぐにうなずいてくれた。
「ああ、そう。まあ、仕方ないよね。物は壊れるものだし」
アンタはいい友達だよ、麻美ちゃん。でもね。真相はね。
「イヤ、そうじゃなくて。ウチに来たある人が、力の限り壁に叩きつけたの」
ああ。あの時も片付け大変だったなあ……。
「えええええ?! アンタんちでいったい、何が起こってるの?!」
またまた、驚愕する麻美ちゃん。そうだよねえ、これがフツウの反応だよねえ。
あれがフツウになっている、私の日常がおかしいんだわ、ハハ。
麻美ちゃんは、私の両肩に手を置いてまっすぐに目を見た。
「いったい何に巻き込まれてるの? 借金? ストーカー? 話してくれたら力になるわよ!」
借金取りよりもストーカーよりもタチの悪い存在に付きまとわれているわけだが。
「ゴメン。相談したいのはやまやまなんだけど」
私はため息をついた。
「麻美ちゃんの安全を保障できないから」
「ヒマワリ? アンタいったい何に巻き込まれてるの?!」
真っ青になる麻美ちゃん。
私は乾いた哂いを返した。
「何より、それを説明しきる自信がないの」
事態が異常すぎるので。どう説明したら誤解されないのか、さっぱり分からないわ。アハハ、ハハ。




