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部屋に着いた私は後ろ手にドアを閉め、固くカギを閉めた。万一、追って来ても決して開けないからね!
しばらく待って、その様子はなさそうだと確信して初めて、深いため息をついてへたれこむ。
いつにも増して消耗した、今夜の王子先輩の訪問だった。
王子先輩のバカ。ドヘタレ。
私。いったい何で、真夜中にこんなに疲労困憊してまで、王子先輩の世話を焼いているんだろう。
自分でも謎すぎる。
でも、あのヒト。一見シッカリした大人の男に見えて、内実は顔がキレイな以外、ほぼ取り得がないダメ人間だからな。
関わってしまったのが運の尽き。そういうことだろうか。
私は深いため息をつき、そのまま十数分そこに座ったままでいた。
ダンス特訓の疲労もあるが、どちらかと言えば精神的ダメージの蓄積の方が大きい。
やがてロボットのような動きで身を起こす。いけない。こんなところで寝ちゃダメだ。
明日も大学はあるんだし、シャワーに入って汗を落として、ベッドでちゃんと寝なきゃ。
生活全般を王子先輩に蹂躙されている場合ではない。
あんなモノに負けず、自分は自分で清く正しく生きていかなければ。
シャワールームのドアノブに手をかけると。
そこから腰を抜かして這い出してきた王子先輩の醜態を思い出した。
何か、見たくないものまで見てしまったというか、見せられたが。
うん、アレは記憶から消去しよう!
あんなヘンな形のモノ、私は知らない。
なぜなら私は、清らかな乙女なのだから!!
それにしても。
あの王子先輩が、まさかオバケをコワがるヒトだったとは。
大学での、カッコウつけた振舞いを思い出すと、余計に笑える。
何度も言うようだけど、オバケとかより本人がよっぽど悪質でコワい人なのに。
もしかして私、先輩の弱みを握っちゃった?
そう思うと、なんだかおかしくてたまらなくなって、私はひとり笑う。
ホント、手がかかる人。
うん。私だけじゃなく、きっとみんなそう思ってる。王子先輩の周りの人は、みんな。
そして、あの手のかかる人を何とか自立させてあげないと、って、思ってる。うん、間違いない。
だから大丈夫。
もう一度。私は、強くそう思った。
何の根拠もないけれど。
王子先輩のことを、大して知っているわけではないけれど。
でもそれはきっと、間違いのないことだから。
うん。
王子先輩は、きっと大丈夫。
そんな思いを胸に抱いて、シャワールームに入る。
電気がついた瞬間、目に飛び込んできたものは。
惨状!!!
普段から。王子先輩が入った後は、使いっぱなしで何の片付けもしていないから汚いんだけど。
今回は途中でノゾキにビックリして飛び出してきたせいか、ひときわヒドイ。
大して広いシャワールームでもないのに、この中だけ嵐にでもあったのかというような有様。
「王子先輩? 今から私に、これを片付けて掃除までしろと?」
乾いた笑みが浮かんでしまう。
いや、笑いたくなんかないのだが。
哂うしかない状況、というヤツだろうか。
時刻は既に午前二時近い。そして明晩来た時シャワールームが汚かったりしたら当然のように怒り出すのは目に見えている。
って。
本当に。
「王子先輩のバカあ! ドヘタレ! どれだけ私の人生を蹂躙したら気が済むんですかあ!」
闇夜に響く私の叫び声。
多分、放っておいたら骨の髄まで吸い尽くされる。そんな気がしてたまらない。
そんな夜だった。




